第349話
頭を戦闘モードに切り替えたことで、全身を苛んでいた腹部の痛みが意識の上で少し遠いものになる。
とん、と軽く床を蹴ると、一気に視界が進み、構えるヴィオレンツァとの距離が詰まっていく。
さっきまで魔力のない空間で戦っていたり、そこで受けた傷が痛んだりしたから少しの不安があったけど、足の風魔法は普段通りに効果を発揮してくれているようだ。
なら、手の地魔法の方も大丈夫そうだね。
「いっ、……くぞ!」
多少の問題はのみ込みつつ、真っ直ぐに突っ込んだ勢いをそのまま右腕にのせて振り抜く。
「甘い!」
その気迫が風として吹き付けてくるような幻視すらともなって、ヴィオレンツァもこっちの攻撃に反応して右腕を突き出してくる。
その軌道は僕の拳を迎え撃つものだ。変にかわそうとしても相打ちになったら体格で劣るこっちが不利だろうし、ここは受けて立ってやる。
「うぐっ」
「ふん!」
僕の岩をまとわせた右拳と、ヴィオレンツァのごつごつとした右拳が激突し、その衝撃が一瞬周囲に吹き荒れた。
瞬間的には拮抗した……けど、すぐにぐぐっと押され始め、結局は僕の方が下がることになる。
「…………」
とん、とんっと風魔法で強化された足取りで床の上を跳ね、下がってから横に動いてヴィオレンツァの隙を窺う。
だけど、当然そんな都合のいいものはなくて、僕が動くのにあわせて構えたままのヴィオレンツァがぬっと方向転換してくるだけだった。
これは……もう仕方がない、か。そう判断して手と足の魔法を雑な仕草で一旦消し去る。
「
体の外ではなくて、内側に風の魔法を流して圧倒的な速さを手に入れる魔法体術の奥の手、
元より負担の大きい魔法だから、覚悟の上で発動させたけど、思ったより……だね、これは。
「はは、ははは」
あまりにも壮絶な感覚に思わず笑いがこみあげてくる。ここまでくると、いっそ楽しくすらあるんだけど、体がいうことを聞かなくなってしまったら、無茶もできないからさっさと始めないと。
「自滅……ですか」
僕の様子を見て、ヴィオレンツァがそんなことを憐れむような表情で言ってきた。
「はんッ、言ってろ」
余裕を見せてられるのも今の内だという思いを込めて、僕は両拳を握り込んだ。
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