第340話
「いっちゃんの魔法で、やっつけてあげるー」
とぼけた口調にふわふわとした動作でインガンノが構えをとる。どこかサイラに通じるものはあるけど、特殊な生い立ちから天然でああなったサイラと違って、インガンノのこれは計算されたまさに“欺瞞”だ。
今でも瞳に宿る光の危うさがそれを示している。とはいえ、それなり以上に実戦経験のあるものでないと気付けないだろう。それくらいには巧妙だし、こうして僕が察知していることも織り込み済みなんだろうね。
「
間延びした声の詠唱。そしてそれとは似ても似つかない強烈な熱が部屋の中を吹き荒れる。それは僕が立っている場所と、インガンノとキサラギがいる場所とを区切るような炎の壁だった。
広い部屋なのにそれを完全に二分するような巨大な炎。それに余波だけなのにすごい熱気だ。
これだけでもインガンノの魔法使いとしての実力が推し測れる。四文字を使うマエストロ――つまり魔法使いではなくて魔法師――であることはわかっていたけど、実戦的な意味でも相当な使い手だ。
それにたいしたものだけど、こんな炎の壁を出しただけで終わるはずもない……。
「
再びの間延びした詠唱の声。そして強力な突風がこちらへと吹き付けてくる。
燃え盛る炎をともなって――
「――っ!」
……そう来たか。
自分のだした炎を自分で掻き消そうとするような行動だけど、その前に風に吹き散らされた火は飛んでくる。それで致命傷を負うはずもないけど、小さくても複数の火傷を負えばそれだけ動きも鈍くなる。
なるほど、避けようのないような攻撃で不意を突いて、徐々に僕を追い詰めていくという策略か。
だけど避けようのない攻撃ではあるけど、残念ながら不意は突けていない。炎の壁を出した時点で、ある程度の見当はつけていたんだよ。
「
強化制御を加えた強力な風を解き放つ。
後出しでも勢いで上回る風が僕から向こうに吹き荒れ、向こうから来ていた風も火も追い返していく。
「生意気なのー」
遅れて発動させたから、インガンノには火の粉を降りかからせた程度で怪我もさせられなかった。だけどまあ、これで向こうのやり口はある程度つかめたかな。
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