第338話

 部屋全体を風の刃が覆い尽くすような魔法を発動し、その直後に僕は闇から飛び出した。

 

 「ぐっ」

 

 相手の虚を突くために攻撃ともいえない自爆みたいな魔法を使ったものだから、僕自身も全身を切り刻まれてあちらこちらから出血する。

 なんとか目の周りは避けたり防いだりしているものの、このままだと僕も消耗してしまう。

 

 「テラ滞留スタレ

 

 薄く頑丈な岩が僕の全身・・を覆って鎧になる。

 今の僕は二つの魔法を同時にまとうことができるし、こうして一つの魔法を広い範囲でまとうこともできる。戦闘能力を高めるために身につけたことだし、実際にこうして自爆みたいな戦法を最小限の被害で敢行できる。

 

 どうしても発動に時間差はあったから、岩の鎧が完成するまでにそれなりに傷は負ってしまったけど、これしかなかった。詰みに近い状況だったからね。

 

 そして飛び出したところでさっと見回すと、目元を腕で覆うようにしたインガンノが再び部屋の奥まで下がっているのが見えた。飛び出した僕への対処を諦めて、とっさに距離をとったか。そして万が一にも強行突破はできないように、奥へ進む扉の方へいったと。本当に抜け目のない……。

 

 そんなインガンノに連れていかれたキサラギだけど、この一年で見ない間に相当魔法の腕を上げている。ここにいたことだし、インガンノに師事していたんだろう。

 あの火魔法の威力は以前――それこそ入学試験の時――とたいして変わっていないけど、制御が段違いだ。この部屋へと続く扉と廊下を正確に焼き尽くしていたし、その後の二撃目の準備も早かった。

 だけど魔法の腕前イコール戦闘能力じゃない。

 ちょっと精神論みたいになってしまうけど、実戦においての強さというのは結局根性がものをいうみたいなところはある。ヤマキやグスタフみたいなタイプはそれによって動じず攻め続けるし、ルアナやインガンノみたいなタイプは冷静さを保って策略を巡らす。

 ……何が言いたいかというと、根本的に根性がないタイプは戦闘中にいちいち動揺するから、敵にいいようにされてしまうということだ。

 

 急に部屋の中を吹き荒れた風の刃に怯んで、頭を抱えるようにして守り、目もきつく閉じてしまっているキサラギを見て、そんな考えが頭を過ぎった。技術だけを磨いてもどうにもならないものもある。

 

 風の刃が収まると同時に、まとっていた岩の鎧もぽろぽろと崩れて落ちていく。どちらも自分で発動した魔法だから、維持できる時間や強度はちゃんとわかっている。

 だからこそ、それと全く同時に次の魔法を発動させる。

 

 「テラ放出パルティ

 

 放たれた頑丈で質量のある岩塊が、まだ自分で視界を塞いでいるキサラギへと殺到した。

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