第335話
僕はとうとう一人になってしまった。ここまで来るのにそれぞれの場を担当してくれた皆の思いがあるから一人じゃない、なんていう精神論は言っても仕方がなく、現実的に戦力を考えるべきだ。
正直にいって、パラディファミリーの中で警戒すべきはドンであるサティと幹部のヴィオレンツァくらいだと考えていた。だけど実際のところは、通路を守っていた連中ですら油断ならない空気をまとっていた。そして幹部ともなると、ラボラトーレもパウラもどちらも無視できるような雑魚とは程遠い存在感だった。
とはいえ向こうからしても誤算だろう。あれだけの精鋭を通路に揃えていたんだ。いくらパラディファミリーが巨大な裏組織だからといって、それなりに無理をしたはずだ。
それだけ僕を殺すことに躍起になっているのが不思議といえば不思議だけど、まあそれだけ高く評価されていると受け取っておこう。
まあ何にしても、あのデルタのなれの果てを用意していただけでも、あの場で仕留められるか相当消耗させられると想定していたんじゃないかな。そうでもないとあんな訳のわからない化け物を飼っておくリスクに見合わないだろうし。その後で本拠地内に用意した大量の精鋭構成員ですり潰すとかいったところかな。
こちらとしても、ユーカが冒険者の一団と一緒にやってきたのは驚いたんだけど、それこそパラディファミリー側からしたら冗談じゃない誤算だろう。あれは……たぶんボーライ伯爵家の横槍だよね? 相手が一番嫌がるようなタイミングで一撃入れるっていうやり口から考えてもそうだし、そんなことができるようなのは誰かって考えてもだ。
その前提で考えて、できればこの襲撃でキサラギのことは見つけておきたいな。ボーライ家としてはそれを求めているだろうし、取引材料になるものは多ければ多いほどいい。
まあまずは僕のやりたいことを……サティを殺してパラディファミリーを瓦解させることを優先するけどね。その後で探そう。
そう考えつつ、やっぱり短い廊下になっていたところを歩き、次の部屋へとすぐに辿り着く。
この扉を開ければ……次はヴィオレンツァかそれともインガンノか。戦いにおいて強力なのはいうまでもなくヴィオレンツァだけど、インガンノは何か罠を仕掛けてくるだろう。
だとするとこの先がどっちであったとしても、警戒して入るべきかな。
この狭い廊下で攻撃されるのは避けたいから――
「よっ!」
――掛け声とともに勢いよく扉を開け、そのまま体を滑り込ませる。
「
僕が入ってきた廊下を覆い尽くすように、魔法の炎が炸裂して燃え上がる。強力な四文字魔法を用意して待ち構えていたか……。
「罠を用意しているのは予想通りだよ、インガンノ」
余裕を見せつけるようにそう言ってやると、広い部屋の奥側に立っていたインガンノは肩をすくめている。
「とはいっても、撃ってくるのが君だというのは驚いたけど、ね」
「…………アル君」
この部屋にはインガンノだけでなく、ヴァイスから姿を消していたキサラギ・ボーライの姿もあったのだった。
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