第333話
アルが扉を通って出ていったことで、この部屋にはパラディファミリーの幹部であるパウラと、アルの相棒であるグスタフだけが残された。
グスタフは重厚なロングソードを振り下ろした格好で、対するパウラはナイフを持つ手ごと弾かれた格好だ。
「……ちっ。気に入らないです」
心底から不満そうな顔でパウラは跳び下がる。その身のこなしは軽快で、決して不意打ちしかできないという訳ではないことが窺われた。
だが、戦闘態勢に入ったシェイザの剣士にそんなことは関係ない。相手が何者であろうと、ただ剣を振り回すのみだからだ。
「うらぁっ!」
「わっ! 人型の魔獣か何かですか!?」
やはり軽快な身のこなしでグスタフの次撃をかわして、パウラは不満を口にする。つまり、会話もできないのか、ということだ。
しかしグスタフからすると、全くその通りでしかない。戦場で出会った敵同士にはかわす言葉などないと真剣に思っている。
「おらぁっ!」
「わわわっと」
さらにグスタフが斬りかかり、それをパウラがかわす。
だがグスタフが答えなかろうとも、パウラには喋る余裕があるようだった。
「ふふふ、僕は“恐怖”のパウラ。君の剣技についても知っているのですよ。ヴァイスにいた時には見ていましたからね……。どうだい、知られているということは怖ろしいでしょ?」
パラディファミリーの恐ろしさの一つは、単純にその組織規模の大きさにある。どこの街にでも構成員や協力者はいて、そこから情報を吸い上げているからだ。
そうした情報を取り扱う最高責任者がこのパウラであり、それを使って翻弄される者を眺めることに快感を覚える変態だった。
そして対するグスタフだが、戦闘中に言葉をかわすことはないが、言葉が聞こえていないということではない。もちろんパウラの言うことも耳には入っている。一々、それらに反応を返さないというだけだ。
「(ヴァイスにいた時……一年前、か。さすがのパラディファミリー幹部といえど、シェイザ家の中までは覗き見できなかったということか)」
頭の中では冷静に、グスタフはパウラの持つ情報が一年前のものであることを推察した。実際、パラディファミリーという裏の顔を持つコレオ家に対するもしもの際の抑止力であることも求められるシェイザ家が、そう簡単に覗かせることはあり得なかった。
相手が勝手に喋った内容から勝利を確信したグスタフは、言葉の代わりとばかりにより勢いをつけて剣を振り回す。
「おおらっ! うおおおおっ! えぃぃぃぃいいやっ!」
「えっ? あれっ? わわっ!」
その速さ、重さ、そして何よりも研ぎ澄まされた殺気に、パウラも徐々に余裕を失っていった。
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