第330話
ラセツが放った風弾は炸裂し、局所的な暴風となって荒れ狂う。
ラボラトーレが投げた小さな赤い石は、その大きさからは想像もできないほどの灼熱を解放する。
人ならざる者による異質な魔法と、古代の人による叡智の結晶は、それぞれに膨大な破壊力を内包していたが、それ故に相殺して何事も起こさずに消えていった。
「赤い石……エクスプローシブジェムとかいうたか? 発動するところは初めてみたが、とんでもない代物じゃの」
ラセツはかつて戦った盗賊団の事を思い出しながら、その頬には汗が一筋伝っていく。今目の前で見せられた物はとても小さな欠片だった。しかし過去に一瞬だけ見た物はというと、もっと大きかったことから、発動すればヴァイスの一部を焼き尽くす程だと怖れていたアルの見立ては正しかったということだ。
「物知りですね。変わった外見だけで判断はできないものです」
眼鏡に軽く触れながらラボラトーレが感心した様子で言う。だが言われたラセツはというと、不快そうに表情を歪めるだけだった。
変わった外見というのが、フルト王国では珍しい褐色の肌をいうのか、精霊鬼の特徴である角を装飾品か何かだと勘違いしているのかはわからなかったが、どちらにしても気に障ることには違いない。
「心のごとく、燃えて吹け」
言葉で反論する代わりに、ラセツは手をかざし、そこから激しく炎を噴き出させた。
だがその唐突な攻撃にも、ラボラトーレは動揺する様子は見せない。
「発動がとても早いですね」
ラセツの特殊な魔法を褒めている言葉だが、それに平気で反応しつつラボラトーレはまた何かを放り投げた。
それは小さな青い石で、不透明なただの色付き石ながら不思議と美しく見えるものだ。
「むっ!」
そしてその青い石がラセツの火炎放射とぶつかった瞬間、まるでそこに初めからあったかのように多量の水が出現していた。だがその状態も一瞬で、魔法の炎が持つ高温に触れたことで水は文字通りに爆発的な勢いで水蒸気と変わる。
「ふふふふふ……」
「鬱陶しい奴じゃの」
瞬間的な爆風とその後に視界が白く染まったことで魔法を中断していたラセツは、見えない中から響いてくるラボラトーレの笑い声を聞いて不満の言葉を吐いた。
「……さて」
一方のラボラトーレはというと、視界が悪いはずの中にあって、真っ直ぐにラセツの方を見ている。それは直前までの立ち位置を覚えているから……などという理由ではなく、身につけていた眼鏡――視界不良でも生物の位置を感知する魔法道具――による恩恵だった。
そしてラボラトーレは余裕の態度を崩さないまま、どの順番で使えば確実に仕留められるかを思案しつつ、隠し持っていた大量の魔法道具を取り出す。
「では、名残惜しいですが仕留めさせてもらいましょうか」
短い時間で準備を整えたラボラトーレは、いまだ広い部屋中に水蒸気が立ち込めるなか、勝負を決める宣言をした。
「はっ、それはこちらの台詞じゃ。……妾の方は名残惜しくはないがの」
そしてラセツの方も、獲物を狩る肉食獣の笑みを浮かべて言い返した。
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