第326話
アルは扉を開くと同時にその中へと走り込む。それにまずライラとサイラの姉妹が続き、その後をラセツとグスタフもすぐに追った。
「……っ!」
広い通路状になっている本拠地内部で待ち構えていた側からすれば、ばぁんという大きな音に続いて人が走り込んできたことになるのだから、それはもちろん驚きもする。
とはいえ、少し前から扉の向こう側で戦闘音はしていたのだから、心構えはできていたために立ち直りは早かった。
「囲んで押しつぶせっ!」
通路内には大勢の構成員がいた。事前にアルが予想していたそう多くないだろうというのは外れていたということだ。それほどにパラディファミリーという裏組織が巨大だということでもある。
だが思ったより数が多かったという程度のことで動揺するような者は、この襲撃者の中にはいなかった。
広いといっても通路は通路。広場のようになっている訳ではない。
そんな場所であるから、大勢が動くことで自然と取り囲むようには既になっている。しかしその中をためらいなくアル、ラセツ、グスタフは走っていた。
「なんだっ、うわあ!」
「くっそおおおお!」
アルから見て前方の、今にも襲い掛かろうとしていた数人が突如足元から燃え上がった。
この通路に入ると同時にライラが仕掛けていた設置式の魔法が発動したからだ。
つまり取り囲もうとしてくることも、その際に前方が一瞬手薄になることも、入ってきた瞬間にはライラの想定の内になっていたということだった。
「相手ならサイラがするの」
「こいつはっ!」
左右を囲んでいた内で、特に身のこなしが素早い数人が、包囲の完遂は難しいと見て飛び掛かってこようとする。しかしその動き出しよりも前に、サイラは突出して殴りかかっていた。
その一当てで二、三人は昏倒し、残りは辛うじてかわしたものの、空を切る腕の轟音に驚いている。
ここを守っていた連中の動きを先読みして設置したライラの魔法が数人ずつを的確に削っていき、想定外に反応した勘の良い者はサイラがその反射神経の良さと俊敏性で薙ぎ倒すか無理でも牽制する。
あまりにも連携のとれた使用人姿の姉妹によって、この主通路の警備は一時的に機能不全に陥っていた。
だからこそ、アルは角の生えた娘と重厚なロングソードを背負った相棒を引き連れて、この厳重な警備の通路を駆け抜けることができたのだった。
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