第324話

 「ヴルカ滞留スタレテラ滞留スタレヴェント滞留スタレ

 

 ライラが今度は憚ることもなく堂々と詠唱する。だけどやっぱりこの時点では何も発動しない。

 火と地と風をそれぞれああいう風に設置したってことは……、なるほど。ライラが罠を仕掛けた場所が感知できる僕は、納得して小さく頷いた。

 

 「なんだぁ……?」

 

 詠唱だとは認識しているんだろうけど、今も不思議そうにしているあたり、連中の中には魔法使いはいなさそうだね。レテラはそれを習得していない者には意味不明にしか聞こえないから。

 とはいえ、好き勝手にさせるというつもりはないようだ。元から三十人近くいたこの場所を守る奴らも、さっきので多少減っている。だけど、特に迂闊な奴が数人減ったことで、戦力的にはたいしてかわらないだろう。

 

 そしてさっき「なんだ」とか言って怪しんでいた奴を先頭に三人が飛び出してくる。具体的に何かはわからなくても、非魔法使いに理解できないということはレテラ――つまりは詠唱――に違いないから、これ以上好きにさせないといったところかな。

 でもさっきは似たような仕掛け方で五人ほどが一度にやられていたけど……。

 

 「なぁっ!?」

 

 近づこうとした連中と僕らの間を遮るようにして岩の壁が出現する。これは地雷方式じゃなくて単純な遅延発動かな。それにしても絶妙で、さすがライラといったところだ。さらに――

 

 「うおっ」

 「ぎゃあああああ」

 「つっ……」

 

 ――風が吹いて足を止めていた三人を吹き飛ばしてしまう。その飛んだ先は残る連中が見守っていた方で、そいつらも突風の余波でよろめいていたところに仲間に衝突されてかなりの人数が体勢を崩している。

 それでも十数人がまだ健在で、じきに今吹き飛ばした奴らも立ち直ってくるだろう。だからこそ、追撃を緩めるようなことがあるはずもない。

 

 「おおおっ!」

 

 予想通りに倒れていなかった連中が一斉に向かってくる。ちゃんと数えていたのかはわからないけど、さっきライラが発動した魔法はなくなったから、今しかないと思っているのかもしれない。

 まあいくら何でも安直に過ぎるよね。

 

 「サイラってば、やってくるの!」

 

 ライラが合図を出すまでもなく、ここぞとばかりにサイラが飛び出していく。背が低く幼いサイラの外見からイメージするよりもその勢いは遥かに激しく、こちらに突っ込んできていた連中も戸惑ったようだった。

 実戦の最中に露骨に動揺するなんて、良くない行動だ。

 

 「うが」

 「ぐっ」

 「ぎゃあ」

 ――

 ――――

 

 僕の見立て通りに、サイラによって次々と殴り倒されていった。ライラが数を減らしつつ動揺させ、残る相手をサイラが薙ぎ倒す。この姉妹による見事な連携で、ライラの作戦通りってところだろう。

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