第322話

 そんな朗らかともいえるやりとりをしつつ、僕らは階段を下り始めた。

 ここはパラディファミリーというフルト王国随一の裏組織の本拠地へと辿り着くための入り口だ。だから緊張感があって当然だし、皆の心中は決して穏やかではないだろうけど、それでも明るく振る舞う程度には余裕があるということだ。

 

 僕? 僕はまあ緊張はしているよ。だけどそれは怖くて縮こまっている訳ではないし、不安に強張っているという訳でもない。

 一年間に及ぶ逃亡生活で溜まりに溜まった不満が、今か今かと噴き出す瞬間を待っているということだ。

 

 ……いや、一年間どころじゃないね。僕が“思い出した”時、つまりは十歳のあの日からずっと死亡フラグに苛まれてきた。

 ゲームでの『アル・コレオ』が死に至るイベントを避けるべく色々と行動していたし、実際にそれはうまくいっていたけど、どうにも見誤っていたらしい。というのも、そもそもの話としてそれでは対症療法に過ぎない。死亡フラグという病を根治するためには、根本原因を取り除かないといけない。

 つまりそれが、パラディファミリーだ。ゲームのシナリオでも、僕にとってのこの現実でも、結局のところはパラディファミリーとそれを牛耳るサティがいるからいけない。

 

 そんな風に自分の内から溢れ出そうとする衝動を、もうすぐだからとなんとか宥めながらも、階段の先が見えてくる。

 かなり長い下り階段――つまり相当深くにある本拠地へとついに辿り着いたということだ。

 

 「……」

 

 僕は無言のまま下りきったことで、その部屋の全貌が見えるようになる。その光景は、上の豪邸内に人気がなかったことや、階段部屋にも罠も何もなかったことの理由だった。

 

 ――

 ――――

 

 がやがやとノイズのように大勢の声が聞こえる。その部屋はそこそこ広く、そしてその半分を埋めるように柄の悪い連中がたむろしていた。

 三十人近くはいるんじゃないだろうか。ただの門番なのに、それだけで小規模な組織なら全構成員でもおかしくないくらいの人数だ。

 そしてそいつらの向こう側に扉があって、それがこの部屋の出口だった。そこを突破するのが無理だというなら、すぐに振り返って階段を上って逃げるしかない。そんなことをする奴が、そもそもここまで来ることはないと思うけど。

 さらにいえば、この構造は幸運にも見覚えがあった。ゲーム『学園都市ヴァイス』で知っているパラディファミリーの本拠地と違いはない。いや、もちろん細かいところ――置いてある物とか――は違うんだけど、構造は同じということだ。だとすると、あの扉の向こうは幅の広い通路になっていて、左右にいくつか部屋があるという形になっているはず。そしてその通路を突破すればいくつかの大部屋を経て最奥に辿り着くことができる。

 

 来てみれば実は迷路になってました――とかだとさすがに困ったんだけど、どうやら杞憂だったらしい。なら後は、進むだけだよね。

 そして僕の周囲に控える仲間達は、待ち構えていた連中を見て息をのむようなこともなければ、騒いだりもしていない。覚悟は固まっている、そういうことだ。

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