第319話
さて、どうしようか?
選択肢は進むか、戻るか、留まるかの三つだ。
進めば前の建物にいる“何か”と戦い始めることになるけど、すぐに倒せなければ建物内で挟まれる。
戻れば後ろからくる集団にぶつかって、これは敵かどうかもわからないけど、敵だった場合は街中で集団戦をしつつ途中で“何か”にも乱入されることになる。
狭い中で挟まれるのは論外だけど、誰に介入されるかもわからない街中で乱戦というのもしない方が良さそうだ。
……と、なると。
「ここで留まって迎え撃つよ」
そう判断して口にした。サイラとラセツは「そうなの?」という表情だけど、頭を使うタイプのライラは小さく首を縦に振っている。
ライラからしても異論がないのなら、まずはこれでいいだろう。それにサイラとラセツも野生の勘みたいなものは鋭いから、何かがあるのならすぐに言ってくれるだろうし。
まあどちらにしても、こんな状況で足を止めて話している時点で、もう選択しているようなものだよね。
「グヴァァァアアアァァァァアアアァァ!」
低くどう猛な咆哮が、大きな衝撃音とともに、辺りを制圧するかのように響いた。
二足歩行の魔獣が、豪邸の扉を入り口部分ごと吹き飛ばして登場した音だ。
「ん……?」
「ととさま、あれは……」
僕が眉をしかめるのと、ラセツが何かに気付いたように声を掛けてくるのは同時だった。
その魔獣は二本の脚で立って、二本の腕があるという点では人間と同じだけど、その全身は白くてごつごつとした肌で、至る所に鋭い棘まで生えている。なにより、その頭部は人間よりワニに近い造形で、並んだ牙が威嚇するように光を反射している。
その異形としか表現しようのない姿……、頭部は見覚えのない形状になり果てているけど、全体的には見覚えがあった。
「死んでいなかったのか……デルタ」
さっきラセツが気付いたように、僕もその記憶に思い至る。それはデルタファミリーの頭領であり、特殊な構造の組織で僕らの手を煩わせてくれたデルタが、古代魔法道具の指輪で体を変化させた姿だった。
ああした古代の指輪型魔法道具はとんでもないものが多いけど、人間を魔獣に変えてしまった挙句、これほどの生命力をも与えるなんて際立っているね。
「あれは……やっぱりそうか」
そしてふと、まだ距離がある中で跳びかかろうと身構える異形の右手には、白い指輪が嵌まっていることを視認する。肌と同色だから見えづらかったけど、やっぱりそうだったのかと改めて確信した。
まあ、かつて対立した裏社会の人間の末路なんて興味ないんだけどね。それよりも今は後ろからそろそろ辿り着きそうな集団にも対応しないと。
どうせ挟まれるなら、まだしも動きやすい場所の方がましだと、留まることを選択したんだから、目立たないようにじわじわと場所を動く。
意図を察したらしい仲間達もそっとついてきてくれたから、うまく動けた。端から見ている者がいたとすれば、ほんの少し移動したようにしか見えなかっただろうけど、この位置ならばどちらも視界に捉えて行動できる。少なくとも挟み撃ちにはされないってことだ。
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