第318話
右手にまとわせていた火魔法は一文字に込められるだけの魔力を込めたものだった。つまりそれだけの威力を持たせていたということだ。
「…………」
だから、地面を滑るように吹き飛んでいったヤマキはもう動かないし話さない。何かを問い詰めたい訳ではなかったし、思い知らせたいようなこともなかった。いや、こんな風に色々と考えてしまうことが……。
「いこう」
思考がどうにも絡まりだったから、僕は一旦考えることをやめて、進むことを促した。今は前を向くべきだ。
「はい」
「いくの!」
「……?」
ライラは僕をじっと見て厳粛に頷き、サイラは建物の方や周囲に視線をあちらこちらとさせながらもやる気を見せる。
だけどラセツは建物の入り口へ怪訝そうに視線を向けていた。
ヤマキが守っていたこの建物に入って地下へと降りる階段を見つければ、その先がパラディファミリーの本拠地だ。簡単にいく訳はないし、ゲームみたいに攻略だと盛り上がれるものでもない。
だから心配するのはわかるのだけど、どうにもラセツの様子はそういうものではなさそうだった。
「ラセツ?」
僕が声を掛けると、ライラとサイラも気付いたようで揃って心配そうにする。当のラセツはというと、すっと上げた手の平をこちらに見せるようにして何事かを探るようにしている。
そしてたいした時間も経たずにその手を下げると、こちらに向けてきた目には警戒感が滲んでいた。
「ととさま、何かがいるようなのじゃ。こちらへ……いや、周囲の全てへ敵意を振り撒きながら蠢いておる」
「……っ!」
その報告を聞いたと同時くらいに、僕にもその“何か”の気配を捉えることができた。敵意というのはラセツ独特の感覚だから僕にはわからないけど、確かに油断ならないものがあの建物の中にはいるようだ。
既知のラストダンジョンだったはずなのに、もうここのことは僕にはわからないね。地下に降りるまでは番人なんていないはずだった。まあ、ゲームでは『アル・コレオ』はそうしなかったけど、この現実ではサティはそうした、というだけのことだ。
とはいっても、向こうから出てくるのを期待してここでのんびりと迎え撃つ準備をしている訳にもいかない。もちろん相手のペースに乗らないという意味もあるけど、それ以上に後ろから近づいてくる気配にも気づいたからだ。
かなりの実力者がそれなりの人数で、ここに近づいてきている。挟み撃ちにでもするつもりだったのか……、あるいはまったくの偶然で抗争にでも巻き込まれたか……。
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