第316話

 一歩前に進み出た僕の意図を汲んで、ライラ、サイラ、ラセツの三人は後方に控える。

 これはヤマキのパラディファミリーへの義理立てであると同時に、僕に対しての贖罪でもある。だから、間違いも疑いもなく僕が手を下さないといけないってことだ。

 

 そんな察しの良い仲間達に満足して小さく笑みを浮かべていると、それを勘違いしたらしいヤマキが不敵な笑みを獰猛なものに変えていく。

 

 「悪いな……」

 

 まだ距離があるけど、ヤマキがそんな言葉を呟いたのが耳に届いた。おそらく、聞こえているつもりはなく言ったのであろうそれは、厳ついこの男には珍しい悔恨が込められているように感じた。

 この状況となるに至ったことを言っているようにも思えるけど、たぶんそれだけじゃない。

 

 「ふん」

 

 そしてそのそれだけじゃない理由の方を思い浮かべて、少々不機嫌になった僕は笑みを消してその感情を鼻から息として出した。それで頭だけ冷静にしたけど、体中を回る魔力の熱さは逃がしていない。

 

 要するに、ここで僕のパラディファミリーへの復讐が潰えると思っているんだ、ヤマキは。

 ルアナからも色々と報告は受けているはずだから、僕に勝てると思っている訳ではないだろう。ヤマキは冷静に彼我を分析できるタイプだろうし。

 一方で、本気で戦えば僕にそれなりの傷を負わせられると確信しているんだろう。

 それを否定はしないよ。戦力差の分析としては正しいと思うし。

 

 ……一年前の話、だけどね。

 

 「ヴェント……ヴルカ

 「っ!?」

 

 僕が二つ・・の魔法を発動させると、それらは足と手にそれぞれまとわりつく。滞留レテラで制御している訳でもないのにある程度こうして残るのは自分の身体にまとわしているからで、僕の魔法体術の特徴でもある。

 そして、それを複数同時に使うことを、今の僕は可能としていた。裏町というのはそんなに居心地のいい場所じゃなかったから必要だったということでもあるし、それだけ必死に爪を研いでいたということでもある。

 

 さて、驚いているところ悪いけど……、ヤマキには早々に退場してもらおうかな。

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