第315話
「ご主人様……」
ライラの戸惑う声。サイラとラセツは戦闘意欲旺盛だからか、静かに構える気配だけがした。
とはいえ、ライラにしても別に戦うのをためらっているとかではないだろう。この状況でヤマキが来ているとは思わなかったし、事前の予測――地下に入るまではすんなりいくだろう――が崩れたことに戸惑っているってところだと思う。
「まさかヤマキがパラディファミリーに義理立てするとはね」
率直な感想を口にすると、ヤマキが眉間にしわを寄せた。
「うちの一家だってパラディファミリーの傘下組織だからな。そらぁ、そうするってもんだ」
当たり前のことを話すようなヤマキの口調。だけど、それに反して眉間のしわは深まり、口もへの字に引き結ばれている。
ゲーム『学園都市ヴァイス』からの知識でも、実際に接した経験でも、ヤマキは昔気質な親分って感じの人物で、パラディファミリー……というよりはサティのやり方は好まない。それからすると、今本人が言ったような理由でここに立っているとは思えない。
……まあ、そうはいっても想像がつかないって訳でもない。
ヤマキは僕に肩入れしすぎたんだ。ヴァイスにいた一年前、ヤマキ一家が僕の後ろ盾になっていた。それを監視していたであろうパラディファミリーからすると、どこかの時点で許容範囲を超えていたんだろう。
そのことを察したヤマキは方向転換して、僕をカミーロ殺害の犯人に仕立て上げる作戦ではパラディファミリーに協力したってことだったんじゃないかな。だけどそれではサティは満足しなかったんだろう。あの後逃げおおせた僕の首でも要求されたとか……かもね。
そして、そうはいってももはやヤマキからすると、今更再度の方向転換をして僕についてパラディファミリーに歯向かう訳にもいかない。ヤマキや腹心のルアナとフランチェスコあたりまでならともかく、その他の構成員は確実に生き残れないだろう。なにより、一度敵対した相手を僕がただで許して受け入れる訳がないし、その気質はわかっているはずだ。
だからヤマキは、パラディファミリーに対してはこんな場所で守りにつくことで義理立てしつつ、僕に対しては詫びのつもりでもあるんだろうね。
それがつまり、あの東方の異国風の死装束ってことだと思う。さっきいったように僕はヤマキのことを“ただ”じゃあ許さない。それに対して、ヤマキは自分の命を支払うことで、せめて一家の方だけでもと言いたいんだろう。
それをはっきりとは口に出さないのはいかにもらしいと思えるし、この先パラディファミリーと僕のどっちが勝って生き残ってもいいようにしているのは見事だとも思ってしまった。
だから……。
「よくもあっさりと裏切ってくれたものだよね。あの時の恨み、ここで晴らさせてもらうよ」
そう告げた。ヤマキの意図を察した上で、ここで僕が勝てば恨みを晴らしたことにするという言葉だ。
それを聞いたヤマキは、何も言わずににぃっと口端を吊り上げていた。
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