第313話

 私は栄えあるパラディファミリーにおいて“暴力”の称号を与えられた幹部であるヴィオレンツァ。その称号は決して飾りではなく、荒事と分類されることはファミリーにおいて私の領分となります。

 ほかには交渉事を担当する“欺瞞”に、情報の収集と操作を担当する“恐怖”、そしてドンの仕事を補佐する“支配”をあわせた四人がパラディファミリーの幹部であり、その頂点に“狂気”のドンことサティ様がおられるのです。

 

 ファミリーの周辺が近頃騒がしいことにはもちろん気付いていました。“恐怖”のパウラや“欺瞞”のインガンノはそうしたことに通じていますし、細かな指示を出す立場の“支配”のラボラトーレにはより詳細な報告も届いていたことでしょう。

 いってしまえばその仕事の全てが殴ることに終着する私にはそれが必要になる瞬間まで細かな情報は伝えられないのがいつものことであり、それ故に今回の騒がしさというのがそんな私にも察せられるほどであるということを意味します。

 

 コレオ領内――つまりはドンの縄張り――を荒らしている不届き者はどうやら貴族のボーライ家であるようですが、正直にいえば驚きはありませんでしたね。

 本来は既に代替わりをしていなければならないにもかかわらず、ドンがサティ様のままであるということについては、フルト王国の上層部ともドン自らが対応していました。

 その上層部というのが、つまりはボーライ家の人間であったとのことです。そこから今に至った理由というのはインガンノに言わせれば「高度に複雑かつ幼稚で感情的な政治的闘争」だということですが……、私からすると要は意地の張り合いなのではないかと。つまりどちらが上かということを互いに見定めようとしている段階ということです。

 そんなものは我らがドンが上ということで間違いないのですが、特に貴族などという愚物はそういう本質ことが見えない生物ですから。

 

 今でこそパラディファミリーの縄張り内での小競り合いになっていますが、事の始まりはヴァイシャル学園のあるヴァイスでのことでした。

 あそこに通っていた元相談役アル殿に接触し、パラディファミリーへの敵対を企てているという存在こそが、そのボーライ家だったのです。

 いつも通り最低限の情報だけを渡された私はインガンノと共に学園都市へと赴き、問題なく任務を果たしてきました。早々にいなくなったインガンノも、どうやら任務を放棄した訳ではなく、あれはあれで仕事をしていたようです。その後ファミリーの本拠に戻って、揉めている最中の貴族家の人間だという小娘がいるのを見た時には目まいがしたものですが、ドンは楽しそうに笑っていたので良かったということなのでしょう。姿を消す前に同じ幹部である私に一言くらいはあっても良かったのではないかと今でも思ってはいますが。

 

 そうそう、あの時のヴァイスでの仕事の結果として表社会から消されたアル殿ですが、ドンから直々に成り行きに任せて手は出すなと仰せつかった時には驚きました。目障りであるなら直接叩き潰すべきだと思ったのですが、ドンはそう考えなかったようです。

 とはいっても、あの流れで素直に衛兵に投降するようなことがあれば、パウラが“用意していた罪の数々”が突如明るみに出て、そのまま断頭台へ直行する手筈とはなっていたのですが、さすがにそうはなりませんでした。

 デルタファミリーとの小競り合いに同行した際に見ていた私からすると当然の経過だったのですが、他の幹部は驚いていた様子でした。しかしドンはというとそれを期待していたようにも思うのです。

 

 だからこそ、今もどこかに潜伏して爪を研いでいるのであろうアル殿には期待しているのです。もっとドンの期待に応えて、楽しませて欲しいと。そして、そこには私自身の願望も含まれていることは否定しません。

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