第310話
僕はかつて、ヴァイスにあるヴァイシャル学園で平穏な学生生活を送っていた。コレオ家の次男アルとして、兄のマイクには時折煩わしい思いをさせられながらも、一年生では優等生として知られていた。
さらに裏社会とのかかわりにおいても、順調だったと思う。パラディファミリーからの接触時には敗北を喫したものの、あれ以降は個人としての力をつけ、ヤマキ一家と繋がり、通り魔事件やデルタファミリーといった問題解決にあたれる程度にはなっていた。
……だけど僕はやっぱり甘かった。パラディファミリーは最悪のタイミングで仕掛けてきたし、ヤマキ一家にはあっさりと裏切られた。いや、そもそもヤマキ一家にはパラディファミリーからの指示で相談役として関わった訳だから、最初から向こうの陣営だったんだ。
だから仕方がない、ヤマキの判断を責める気はない……なんてことはもちろんなくて、ヤマキにはいずれ報いを受けさせるけど、僕が甘かったということはやっぱり間違いない。
とはいえ、ヴァイスで過ごした時間の全てが無駄だったなんて思ってはいないけどね。過去の世界でグイドという化け物と対峙したことで強くなる切っ掛けを得て、ラセツと出会った。ユーカとの関係だって、あれがあったからあの時逃げることができた。考えが足りなかった部分も見落としていたものも多かったけど、それ以上に得たものが大きかったからこそ、今こうして再起のチャンスがあると思うのは楽観的ではないだろう。
まあそれを踏まえると、ボーライ家とカッジャーノ家については対応が難しいところだ。おそらくパラディファミリーがヴァイスで仕掛けてくる切っ掛けとなったボーライ家からの協力要請。あれはまだ続いていると、つい最近カッジャーノ家からの使者に聞かされた。
普通に考えると、執念深い謀略伯爵はまだ作戦を失敗とは思っていなくて、僕を含めた攻撃を続行するつもりなんだろう。
だけどそもそもの話として、パラディファミリーにも察知されずに潜伏している僕のことを見つけて――あれは偶然出会ったとかじゃなかった――いる時点で、やっぱりボーライ家もカッジャーノ家も油断ならない相手だ。
攻撃の気配に気づいたはずのパラディファミリーがその後手出ししていないのが、それを何より物語っている。あのサティに敵対しようとした相手を許すなんていう感覚があるはずがないんだから。
そうはいっても、じゃあどうするんだというと、何もできないんだけどね。何せ使者として姿を見せたアデーレからは、何の情報も得られなかった。どころか勝手にやれということですらあった。今にして思えば、それは僕から何かを仕掛けられることを防ぐ意図もあったのかもしれない。協力するという確認をしつつ、一切の手の内を見せないことで裏切る準備をすることもできなくする。そう考えると土壇場で裏切ったとしても、何かの対策は用意してあるだろうし、それなら結局素直に協力を続けた方がマシだ。そしてそう思わされているということが、おそらくは謀略伯爵の手の平の上ということなんだろう。
まあその辺に色々と思うところがない訳じゃない。……どころか、かなり腹立たしい。だけどそれも後回しだ。精々油断だけはしないようにしつつ、今はまずパラディファミリーに集中する。
ようやく準備が整ったんだから。
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