抗う魂・衝動解放編

第309話

 俺はグスタフ・シェイザだ。年齢的にはもうじき出家することになるが、今はまだシェイザ家の人間ということになる。

 であるからこそ、ヴァイシャル学園を辞めて家に帰ってこいと言われれば、それに従うほかはなかった。

 

 一年前のあの時……、アル君がヴァイスの衛兵からカミーロ殺害の容疑で指名手配され、幼馴染であり学園でも最も親しい俺は、もちろん共犯を疑われて取り調べを受けた。

 ただの衛兵ごときが、相手を学生と侮って用意したような取り調べなど、力尽くで突破して逃げることは容易だった。だが俺は一旦素直に連行され、取り調べに応じていた。何を聞かれても共犯の証拠など出るはずないとわかっていたからだ。

 俺はカミーロ殺人に関与していない。それは当然、そんな計画はなかったし、アル君がカミーロを殺すなどない状況だった。なにしろ俺はカミーロから……いや、ボーライ家から例の計画を持ちかけられる所を一緒に見ていたからだ。アル君がそれに乗り気であった以上は、その窓口であったカミーロを気紛れに殺すなどありえない。

 可能性としてありえるのは、ボーライ家かカッジャーノ家が裏切ってアル君を襲い、それを返り討ちにしたということだが、それこそありえない。もしそれらの貴族家が動いたのであれば、このように俺がのうのうとしていられるはずがないからだ。

 

 「ふんっ……、ぬぅん……、せぃっやっ!」

 

 この一年で、俺が何をしていたか。それはただひたすらにこうして剣を振っていた。シェイザの剣術に秘密の奥義など存在しない。気合いを解き放った後は、ただひたすらに己の刃を叩きつけるのみ。

 だからこそ、何かを授かって急激に強くなるなどという近道は存在しない。それこそが剣というものでもあるが。

 

 だが今日の鍛錬はここまでだ。まだ日も高いが、明日の準備をしなければならない。

 明日の……出撃の準備を。

 

 不良行為の度が過ぎたという理由で実家に戻された俺は、これまでにも何度か領内の魔獣や盗賊を討伐する任務を与えられていた。シェイザ家の人間として相応しい形での武を積めということだ。

 そしてその集大成として、今回の出撃を申し付けられた。つまり、シェイザ家の人間としての務めを今度こそ果たせということだろう。

 

 裏の使命としてパラディファミリーを運用するコレオ家とは同格の男爵家でありながら、シェイザ家はその補佐のように振る舞うことを求められる。それはフルト王国から申し付けられたシェイザ家にとっての裏の使命であるのだが、そこにはさらなる裏があった。それはコレオ家やパラディファミリーが王国の手に負えないほどの暴走をしそうになれば、事前にそれを潰してしまうというもの。俺がアル君の幼馴染であったことも、つまりはそういうことだった。

 

 だから王国の敵になったと判断されたアル君を直接討つ役目が俺に与えられるというのは、当然の流れだ。

 それに逃亡中のアル君がとある場所に現れるはずという情報は、あのボーライ家からもたらされたものだから、これは確実なものなのだろう。相変わらずそのような情報をどうやって得ているのか不思議なものだが……、とにかく俺の為すべきことははっきりとしている。

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