第308話

 コルレオンの裏町にある木造のボロ家に、つまり今の拠点に僕は帰ってきていた。

 

 「久しぶりじゃの」

 

 そして一緒に来たラセツは、中で待っていたライラとサイラに向かって、軽い調子で挨拶をする。

 

 「……ご無事だったようで、何よりです」

 

 ラセツの顔――恐らくはまだ少し腫れぼったい目――を一瞬見ていたライラだったけど、そこには触れずに事務的な態度で頭を下げる。とはいえそれも態度だけで、内心では喜んでいることは、珍しく綻んでいる口元を見ればわかる。

 

 「良かったの、サイラってばうれしいの!」

 

 一方で、全身で嬉しさを表しているサイラの方が、僕やライラが喜んでいるから「良かった」と言っているだけで、実際の所は内心ではそれほど嬉しく思ってもいなさそう。まあサイラはずっとそういう感じではあるけど。

 

 「ここにいるだけかの、ととさま?」

 

 ラセツの質問は、一年前の仲間で再集合できたのはこれで全てかということと、新しく増えたメンバーはいないのか、ということだろう。

 

 「そうだよ」

 

 肯定する。あの時、僕がヴァイスで衛兵に追い詰められた状況から逃げる際に、自分の身を顧みずに動いたユーカの姿が頭を過ぎったけど、それは口にしない。

 別にユーカのことを時間が経ったから仲間と思っていないということじゃない。今の僕には知る由もないけど、あの後無事にユーカが過ごしているのだとしたら、それはその方がいいようにも思うからだ。彼女は僕らに恩を感じていたかもしれないけど、根本的なところで善人だった。狂った上に洗脳されていた時には街を恐怖に陥れる通り魔と化していたけど、逆に言えばあの状況にまでなって初めてああなるくらいってことだ。だから、まあ向こうから来たのならともかく、こっちから裏社会に引き込むことはしたくないと、今は以前よりも増してそう思っている。

 

 「あとはグスタフ様だけですね」

 

 ライラが状況を整理するようにして言う。

 

 「むう……」

 「グスタフの奴なら、放っておいてもやってきそうじゃがの」

 

 色々と訓練を受けていたことを思い出したのかサイラが少し嫌そうな顔をすると、ラセツは楽観的なことを口にした。

 でもまあ、僕としてはラセツの意見に賛成だ。なぜならグスタフは仲間は仲間でも僕の相棒で、本当の意味で対等に思っているからだ。

 

 「ご主人様?」

 

 ふと、左目の上辺りを撫でた僕に、ライラがどうしたのかと尋ねてくる。

 

 「……いや、なんでもない。それよりラセツの言う通りだよ。グスタフなら向こうでなんとかしているさ」

 

 ラセツの楽天的な性分に乗っかるような発言を聞いて、ライラは驚いたような顔をする。次はグスタフと合流するための行動に移ると思っていたのかもしれないね。……いや、ライラなら情報収集くらいは既に始めていたかもしれない。

 だけどすぐにライラの表情は引き締まったものになる。ライラが僕の決定に異を唱えることなんてないし、そうであればついに本格的にパラディファミリーへの反攻が始まると理解したからでもある。

 

 「ようやく、雌伏の時は終わりだ」

 

 そう口にすると、僕は自分の口が弧を描くのを堪えられなかった。

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