第305話
罠にはめられてカミーロ殺しの犯人とされてしまい、学園都市ヴァイスから離れてコルレオンで裏町に身を潜めてから約一年間。僕はこの場所からなるべく離れないようにしていた。
理由はもちろんパラディファミリーに察知されないようにするためだ。僕が姿を消したからといって、それで死んだと思ってもらえると期待するのは楽観的過ぎる。裏組織みたいな連中は希望的観測をしない。今もきっと僕を捕まえて殺そうとしているだろう。
「天気が悪くなってきたな……」
だからこの外出は久しぶりのものだったんだけど、街を出て少し歩いたあたりから、雲行きが怪しくなってきていた。
ちなみに、コルレオンの出入りには当然立派な街門を通るんだけど、今回はそこから出入りはしなかった。門番をしているのは衛兵の中でもエリートで、普通の街ならそんな重要なところにまで裏社会の影響は及ばないんだけど、このコルレオンは特殊だ。つまり、当然そこまでパラディファミリーの息がかかっていると考えるべきなのだった。
だから裏町の人間が使う“抜け穴”を使った。これが初めてではないそれは、僕がまだ十二、三歳の頃に知ったもので、別に文字通りに穴があいていたりする訳じゃない。そこは門とは別に外壁のあちらこちらにある通用口の一つであり、本来は緊急用だから開け閉めするようなものじゃない。
だけど当然そこにも見張りの衛兵は立っていて、裏町の近くのとある通用口だけが、その抜け穴だった。
その絡繰りというのは実に単純で、そこにいる衛兵の内の一人だけが、賄賂が通用する汚職衛兵だということ。こんな場所の見張りに任命されるのは清廉潔白な信用できる人材だけなんだけど、何にでも例外も穴もあるということなんだろうね。あるいは、裏町の人間がこそこそと出入りすることまで、領主もパラディファミリーも気にしてはいられないということなのかもしれない。
そんな風に街を出るのも、そして戻るのも別に苦労するようなことではないとはいえ、やっぱり動きを起こせば起こすほど察知される可能性も高いから、僕は裏町からなるべく出ないように過ごしていたということだ。
だからこの久しぶりの外出というのは、晴れ晴れとした気持ちがないといえば嘘になるもので、実際に外の空気を呼吸することすら、気持ちよく感じたほどだ。
そうだったというのに、徐々に雲が出てその厚みを増していくというのは若干だけど気が重いものだった。
……だけど。
「……ん?」
そんなやや暗鬱とした気分で空を見上げつつ歩いていたんだけど、そこに何か感じた気がして眉をひそめる。気のせいかな……? この空に見覚えがある様な気が……。いや、空にっていうかこの雰囲気に……?
「まあ、それはいいか」
そう口に出して気持ちを引き締める。別に僕は気分転換をするために、街を出てきた訳じゃない。
ライラからの報告に気になるところがあったからだ。近頃街の近くで魔獣の遠吠えを聞いたという報告がいくつかあって、そろそろ冒険者に依頼が出されるかもしれない、という内容だった。街の外の森がある側であれば魔獣も多いから、それはよくあることだ。だけど報告されているのは、荒野のようになっている側で街道からは外れた小さな荒れ山の方からじゃないかということだった。
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