第303話

 突如現れたアデーレだったけど、僕が肯定的な態度を見せるとすぐに去って行った。

 

 曰く、

 ――協力態勢をとれるのならそれで十分です

 ということだった。

 

 今回もボーライ家が裏にいるということだったから、あれこれと詳細かつ巧妙な策を立てて、こちらにも色々と指示してくるものかと思っていた。

 使い捨ての下っ端構成員にさせるような無茶なこととか言われたら腹立つなぁ、なんて身構えてもいたんだけど、違うようだ。

 

 思えば前の時もそうだったっけ。これがかの謀略伯爵のやり方ってことなのかもしれない。つまり、味方かどうかだけを確認すれば、あとは自分は自分で勝手に動く。その過程で必要があれば、その事前に確保しておいた味方を動かす、とか。

 

 つまりはまさに手駒とされたってことだ。それはやっぱり腹立たしいことなんだけど、そんな理由でボーライ家とカッジャーノ家を敵に回すという行為は、今の僕には贅沢品だ。

 そもそもの話、国や貴族連中を敵に回さなくて済みそうということは、普通に助かる。いや、まあだから腹が立つんだけど。なんにしても、これで僕はパラディファミリーへやり返すことだけに集中できるってことだ。

 

 さて、そうなるとまずは現状を整理しよう。

 僕はコルレオンにあるこの裏町において、“裏町のアル”と呼ばれる程度には地位を固めている。事実上のまとめ役――裏町に結束なんてものはないけど――である酒場のマスターとも信頼関係を築けている。だからといって裏町での地位をさらに高めて組織化するようなつもりはない。対パラディファミリーとして考えても、戦力にはならないからだ。

 それについては、少数精鋭で頭を潰すことに注力するしかないと、既に考えを固めている。

 

 そしてそのための少数精鋭――実力があって信頼もできる仲間というと、決まっている。そもそも自分一人で大きな組織を相手にできることなんて限られていると前世のおぼろげな記憶から教訓を得たから、思い出した十歳の頃からそのつもりで動いてきたんだ。

 とにかく逃げるしかなかったものだから、ばらばらになってしまった仲間。その内のライラとサイラの姉妹は合流を果たした。そしてそのおかげで情報収集やその取捨選択の精度が格段に上がった。

 次の仲間……、色々あって僕を「ととさま」と慕うラセツが見つかるのも近いと考えている。ライラは意図的に僕の目につきそうな行動をとっていたけど、人ならざる精霊鬼はただいるだけで耳目を集めるからだ。まあ何が広まっていたとしても、それが正確に精霊鬼に関係することだと見抜けるような人もそうはいないだろうから、あまり心配もしていないけどね。

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