第302話

 「そうだとして、今更僕に何をさせようと?」

 

 アデーレに対して、殊更に冷めた目を向ける。巻き込まないで欲しいという意思を主張するように……。

 

 だけど、これはもちろん嘘。内心ではこの言葉にすぐにでも食いつきたいという感情が渦巻いている。

 

 カッジャーノ家はカミーロの死に関して僕を疑ってはおらず、むしろパラディファミリーを真犯人として一緒に復讐する気まである。――と素直に受け取ることはさすがにできない。

 そうであって欲しいという願望まで否定はしないけど、裏町にまで落ちることになった状況で楽観的にはとてもなれないよ。

 

 「この場で何かを約束してもらおうとも思ってはいませんので、ご安心を」

 「だけど、さっきは作戦に僕も含むといっていたけど?」

 「ええ、そうです。ですが、あくまでも作戦の一部として組み込まれているというだけのこと。絵図を描いているのはあのボーライ伯爵ですから……」

 

 煙に巻こうとするような言葉の不自然な点を指摘しても、アデーレはまさにのらりくらりといった雰囲気だ。これは確かにあのカミーロの血縁だと、今になって納得できたように感じる。

 とはいえ、あの謀略伯爵がすることだ。確かに僕が拒んだところで、それでとん挫するような計画であるとは思えないし、僕には関わる以外の選択肢がないこともわかって言っているんだろうね。

 

 まあ、そうはいっても、不満ばかりということでもない。

 準備を整えてパラディファミリーを瓦解させることに成功したとしても、その後のことが悩みの種だったということは事実だしね。

 それに、ボーライやカッジャーノがあんな雑な仕掛けに踊らされて、本気で僕を犯人として疑うはずもない……か。

 

 「……で?」

 

 じっくりと考える間をとってから、僕は続きを促した。長々とこちらの考えを開陳する必要もない。聞こうとするということは、関わる気があるってことだからだ。

 

 「ふふ……」

 

 そんなこちらの反応を受けて、アデーレは最初からの余裕を崩さずに微笑む。何度目かもわからないこの態度だけど、これがアデーレがカッジャーノに属する人間として身につけたある種の手管なのかもしれない。

 ……ふとそんな考えが浮かんだ。

 思えば要所でこうして笑みを深めるのは、ある種の儀式みたいなもので、相対する人間に圧をかけつつ平静を保とうとしているのかもしれない。

 まあ、そんなことに今更思い至るあたり、こっちも突然の訪問に動揺していたのかもしれないけどね。

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