第300話
ぱっと見は小綺麗な格好をした普通の人。それが声を掛けてきた奴の印象だった。
だから、コルレオンに住む普通の住人――表の人間――が、こっちに迷い込んできたかと一瞬思った。
だけどこの動じない所はとても普通とはいえない。僕は確かに優男って感じの外見だということは否定できないけど、十歳の頃から殺伐とした中で過ごしてきた。特にこの一年は裏町での荒んだ生活だったから、余計にそういう雰囲気が磨かれてしまった。
だからただ睨むといっても、鋭い目線を向けるというだけじゃない。裏社会の人間特有の雰囲気で相手を呑み込んでしまうってことだ。
さすがに、魔力を放つようなことまではしていないけど、目の前の相手がもし普通の表の人間なら、多少の動揺くらいはするはずだ。
「何の用かな?」
相変わらず薄く微笑む相手に、睨むのを止めて率直に聞いた。もしこれがパラディファミリーの刺客だったりするなら、話しかける前にとっくに攻撃してきているだろうし、とりあえず意図くらいは確かめてみよう。
「すみません、お困りのようでしたから、つい……」
僕の質問に対して答えるでもなく、そんなことを言ってきた。余裕ぶった態度が気に食わないけど、それとは別に何か引っかかるものがある。
なんだろう? この雰囲気を知っているような気がするのに、会ったことはないはずだ。
「私の顔に何か?」
「あ、いや――」
聞かれて戸惑う。このふてぶてしさともいえるような肝の据わり方にやっぱりどこか既視感を覚えたからだった。
「――どこかで会ったことが?」
「ありませんよ」
確認してみたけど、即答で否定される。だけどそれで終わりではなかったようで、続けて口を開く。
「兄に似ているとはあまり言われないのですが……、やはり血は争えないということなのでしょうか?」
ずっと浮かべている微笑に少し困った様な色を混ぜて、そいつは言ってきた。兄……? そいつが僕の知り合いってことなのか?
「私はアデーレと申します。本日はカッジャーノ家からの使いとして伺いました」
カッジャーノ!? ということはカミーロの妹ってことか?
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