第299話
ロレッタとの表向きは朗らかで、その実はぴりぴりとしたやりとりのすぐ後で、僕は用心棒の仕事を終えて酒場を出てきた。
勝手にやっているということもあって、僕は別に酒場にずっといる訳じゃない。それでも裏町のアルがそこによく顔を出すというだけで、効果としては十分だしね。
ロレッタの後ろにいたのはパラディファミリーではないと今回は踏んだけど、だから油断できるということじゃない。とはいえ、そっちの対処に時間も割けないっていうんだから、本当に考えるだけで苛つくよね。
なんにしても、僕の今取るべき行動はパラディファミリーを潰すための準備だ。だから仲間と合流する必要がある。
……問題があるとすればその後、なんだよねぇ。
裏の存在とはいえ、あまりにも強大なパラディファミリーという敵は、前から考えているように頭――幹部連中とドン――を潰すという手を取るしかないと思っている。苦労することではあるんだけど、その一方で苦し紛れながらに手はあるということでもある。
問題っていうのは、その後のことだ。
今のパラディファミリーがドンであるサティの強力な魅力――裏社会の人間というのはああいう狂人に惹かれる――でその巨体を維持していることは間違いない。だから、その頭だけを潰せば後は自滅するだろうし、その際に起こるであろう混乱なんていうのは僕に興味はない。
だけど興味もあるし、放ってもおけないという連中がいる。この国の上層部である王族や上位貴族達だ。なにせパラディファミリーは貴族であるコレオ家、つまりはこの国の“仕組み”の一部だからだ。その仕組みを作る側の連中が怒って介入してくるのは火を見るより明らか。
現状で頭にある案というのはちょっと案ともいえないもので、パラディファミリーを瓦解させた後はフルト王国内のどこかに隠れてしまおうという感じだ。
国外のもっと遠くへ行くべきと思うかもしれないけど、まあ普通はそうだね。だけど僕は普通じゃなくて、この世界についての情報をゲーム『学園都市ヴァイス』として知っている。その中には隠れ場所にできそうな遺跡や、王都との繋がりが薄い地域、さらには素性を偽るのに協力してくれそうな団体がある場所ってものまである。
「さて、どうしようかな……」
裏町の中を適当にうろつきながら、思わず口から愚痴をこぼしてしまった。今はとにかく仲間と合流してパラディファミリーという大きな敵を潰そうとしか考えていないから、その後のことは気が重いんだよね。
相手が国という大きな存在である以上は、戦って勝てるとはさすがに思えない。国王や上位貴族の何人かを殺したところで、挿げ替えられるだけだろうしね。
「困りごとですか?」
「っ!」
その時、近くにいた見覚えのない奴から突然声を掛けられて驚いた。近くを通り過ぎようとする人間がいることも、このタイミングで偶然にも他には人が近くにいないようになっていることももちろん把握はしていた。
だけど、それとその知らない通行人が声を掛けてくるなんていうのは別だ。特にこの場所は裏町なんだから、浮かない表情を見て思わず親切心で声を掛けたなんていうことは万に一つもありえない。
「……ふふ」
そいつは僕が睨みつけても、怯むどころか微笑んでいる。見覚えのない顔だけど、表の人間が間違って迷い込んだなんて訳ではないってことか。
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