第296話
「本当に良かったです……。そして、遅くなって申し訳ございませんでした」
前半はどこか昔の雰囲気で、後半は今の彼女らしく、ライラは僕に頭を下げて言った。伏せた顔の目の辺りを手で拭う仕草もしている。すぐ泣くのは昔からだけど、今はメイドとしてのプライドでそれを見せたくはないらしい。
「サイラってば、びっくりしたの。だって途中でご主人様だったの」
「……?」
頬を赤くして話すサイラが興奮しているのは再会を喜んでいるからだとして、言っていることがいまいちよくわからなかった。
えっと……、途中で僕だったからびっくりした……?
それはつまり、途中で僕だと気付いたってことかな。僕を見つけて会いに来たわけではなく、別の事をしていて偶々見つけて驚いたってこと?
いや、ちょっと違うか。状況からしても、ライラとサイラは仕事をしていて、その途中で向かっている相手が僕だと気付いたってことだ。
そして僕は何故ここに来たのか。それはロレッタからパラディファミリーに属さないで活動する殺し屋がいると聞いたからだ。僕の方はそれがこの二人じゃないかと思ったからこそ、探していたんだけど、向こうはそうでもないだろう。つまり、普段通りの仕事をしていた、ということだ。殺しの仕事を……。
「こうした仕事をしていれば、再び会えると確信していました……。ですが、今この時までがとても長く感じました……」
嬉しそうにしているサイラを引きはがしていると、ライラはこちらをじっと見ていた。さっきは目元を拭ってから顔をあげていたけど、もう既に目が潤んでいる。
「やっぱり、僕を殺す依頼が?」
「……はい」
「そうなの! ひどい人もいたものなの!」
確認すると、ライラは神妙に頷き、サイラはぷんぷんという擬音がつきそうな怒り方をしていた。
ロレッタから買った情報を元にして探しに来た最初の場所に、ライラ達は殺しの依頼を受けてきた。僕がその殺し屋を仲間じゃないかと考えていたことはロレッタにはあの時当然話してはいなかったから、繋がりがあるなんて思いもしなかっただろう。
それからすると、ある考えに辿り着く。ロレッタが僕をこの場所に誘導しておいて、殺すよう企んだ。いや、それだとロレッタに利益がない。個人的に恨まれるような記憶もないし。
そうなると、ロレッタが誰かに依頼されて、僕をこの場所に誘導した……ってことか? そして裏町屈指の情報屋であるあいつが、その誘導が意味するところを気付きもしていなかったなんてことは考えられない。
「……嵌められた、のかな」
「「っ!」」
僕が行きついた考えを呟くと、それを聞いた姉妹が揃って息をのんだ。そしてその次の瞬間には、二人揃って怒りを表情に出し始める。片方は冷静な仮面の下で沸々と、もう片方は表情筋を目一杯に使って。
「すぐに報復を――」
「しないよ。今は、ね」
ライラが提案しようとしたことを、言い切る前に遮った。ライラは戸惑い、サイラは不満そうだけど、今はヴァイスにいた時とは状況が違う。
「まずは皆を集めて、力を取り戻すのが先だよ。その途中である今の時点で、派手に動いてパラディファミリーに僕がここにいると気付かれる訳にはいかない」
説明すると二人は一応不満を呑み込んでくれたようだった。僕だって舐めた真似をされて放置するなんて、はらわたが煮えくり返りそうな心地だ。
だけど、今はまだ再起の時。仲間と合流して、反撃の機会が訪れるまでは、堪えることだって重要だ。はっきりとしない記憶だけど、前世では仲間を作らず、機を窺うような我慢もせずに振る舞った結果、惨めな最期を迎えた……ような気がする。
だからロレッタも一旦放置だ。というか、まだあの情報屋には役立ってもらわないといけないしね。あいつがあいつの利益のために僕を嵌めた報いは、当然いずれは受けてもらうことになるけど、ね。
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