第295話

 「ば、化け物、よるな……消えろおおおおっ!」

 

 絡んできたうちの片方はさっき殴り倒したけど、残った方が何やら喚いている。こんな場所――僕が心置きなくこいつらを潰せるような――まで連れてきてくれたのはお前らじゃないか、と思ったけど口には出さなかった。

 今はそれより気になることがあるからだ。

 

 と、接近してきていた気配が裏町の低い建物を飛び越えて姿を現したその瞬間、魔力が飛んできて魔法が発動する気配もした。

 

 「ヴルカ滞留スタレ

 

 魔法を撃つのではなくて、指定した場所で留まって効果を発揮させる構成。だけどその魔法は見える範囲で発動していない。

 当然だ、これはその場所を踏むことで発動する魔法、いってみれば地雷みたいな魔法だからだ。

 

 「な、なに、なにされた!?」

 

 さっきは僕に向かって何か言っていた奴が、今度は別方向に喚いている。というか、火と滞留っていう基礎的なレテラすら認識できないってことは、完全な魔法素人らしい。どう見ても戦士にも見えないし、本当によくこいつらは裏町にちょっかいかけに来れたものだ。

 

 「もういやだぁぁっ、なんで俺がこんな目にっ――いぎゃああああああっ!」

 

 僕が殴り倒した方がうずくまっているのとは逆方向に走り出した次の瞬間、そいつは足元から吹き上がった炎に全身を焼かれていた。

 すぐに悲鳴も聞こえなくなって、人の肉が炙られ、骨が爆ぜる音だけがあたりに響く。

 

 「ご主人様への不敬な発言……、死ですら生ぬるいですよ」

 

 僕をご主人様と呼ぶ鋭い雰囲気の女が、僕の隣に降り立って炭になりつつあるそれに向かって厳しく言葉を放つ。

 

 「ご主人様、お久しぶりなのーっ!」

 

 そしてもう一人、背が低く幼い顔つきながら攻撃的な目をしている女が、こっちも僕をご主人様と呼びながら飛びついてくる。

 そしてそれを受け止めてやや雑に頭を撫でてやりつつ、魔力の気配で察していた通りであったことに満足して僕は微笑んだ。

 

 「うん、久しぶり。合流できて良かったよ、ライラ、サイラ」

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