第294話
「おいおいおい、無視ですかぁ?」
「虫けらだけに……ってか?」
僕に絡んできた二人組は何やら喚いて「ぎゃはぎゃは」と笑い転げている。何が面白いのかわからないし、今すぐにでも捻り潰してやりたいところではあるんだけど、ちょっと一旦後回しだ。
かなりの速さだ、この接近してきている気配は。それに途中で気配が二つに増えた。
……というより、恐らくもともと二人だったんだろうけど、片方しか殺気を放っていなかったからもう一人に気付かなかったんだろうね。それが今は二人してこっちに殺意を向けてきているから、感じる気配も二つになった、と。
いや、何かおかしい……かな?
そもそも殺気の
元は明確に僕へと向いていたからこそ、遠くから気付いたというのもあるんだけど、二つに増えてからは微妙にその向きというのがずれている気がする。
つまり、僕じゃなくてこの馬鹿どもに……ってこと?
「おい! いい加減にしろ――へぶっ」
「え? あれ……?」
近づいてくる謎の殺気に気を取られていると、絡んできた二人組の片方が僕の肩に触れてきたものだから思わず裏拳を顔面に叩き込んでしまった。
何の魔力的強化もしていないし、魔法をまとわせているわけでもないただの拳だったけど、当たり所がよっぽど良かったのか、顔に痣を作った馬鹿は倒れ込んで動かない。もう一人はその口と鼻の近くに手をかざしたりしながら、戸惑う様子を見せている。
まさか、殺されることなんて考えてもいなかったんだろうか。そんなのが入り口付近とはいえ裏町をうろついていたなんて問題だ。今度酒場のマスターにも伝えておこう。こういうことはあの人が大体なんとかしていることだったはず。
「こ、あ、ひ……ひと、人殺しぃぃ!」
相方の状態確認に満足したのか、馬鹿の残り一人が僕を指差しながら叫んでくる。その指を掴んで折ってやりたい衝動にかられるものの、今はそんな余裕はない。
高速接近してきていた二つの殺気が、もう目前まできたからだ。姿が見えるのもまもなく、ってところだろうね。
だけどそれだけ近くなったことで、ある程度明確に気配というか魔力の雰囲気がわかるようになってきた。この正反対のようで本質はよく似ている魔力って……。
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