第292話

 ロレッタから情報を聞いた次の日、僕は裏町の端を一人で歩いていた。まあ、裏町っていう区画が明確にある訳じゃないから、端っていってもどこが端だよって話なんだけどね。

 だから正確にいうなら、コルレオンの中で特に治安が悪い地域から離れて、徐々にマシになり始めてる辺り、っていうのが正しいかもしれない。

 

 なんでこんなところをうろついているのかといえば、それはもちろん話を聞いた殺し屋を探しているからだ。話に出てきた殺し屋っていうのはおそらくライラで、近くにサイラもいるだろうっていう予想で、まずは会ってみることにしたってことだ。

 そして探しに来たのも別に当てずっぽうじゃない。ロレッタに多めの金額を渡したから聞けたのであろう情報は、殺し屋の特徴についてだけじゃなかった。

 それがこの場所。次の依頼が実行される予想地点、だ。

 なんでもこの辺りをうろついている若い男が、次の標的として依頼されたとか。とはいえロレッタの情報でもわかるのはそこまでで、いつどこで実行されるのかまではわからない。だからとりあえず、現場に来て歩いてみたって訳だ。

 

 ライラとサイラが下見にでも来ていれば会えるんだけど……、それはさすがに運任せすぎるか。

 

 「なんだお前……、変な格好しやがって」

 「ここはお前みたいなひょろっちいのが来て良い場所じゃねえぞ?」

 

 と、きょろきょろとしていたら、変な二人組に絡まれてしまった。今の僕は薄汚れたヴァイシャル学園の制服をかなり崩して着ている。この辺りでは知られたものではないし、実際にこいつらに「変な格好」と言われたということはこれで良かったらしい。

 僕は“裏町のアル”としてそれなりに怖がられているけど、それはまあ裏町でも中心部の方での話だ。あまり名が広がり過ぎないようにもしているし、そうしなかったとしても裏町の連中は外に話をしにいったりしないし、外の連中は裏町の話を聞きたがったりしない。

 だからこの裏町でも端の方でイキってるような半端な連中が、僕の風貌を把握していたりするはずもない。

 

 「へへへ……、俺らが教えてやるよ、裏町の怖さってやつを、な」

 「ひひ」

 

 二人組はそれなりに綺麗な身なりで、手や顔も汚れていない。良い所の子供が不良となって、“裏町の人間”ごっこをしているってところか。こんなところを歩いている僕を見て、正にそこから来たってことを察せられない時点で、裏社会どころか表でもまともにやってはいけない愚鈍さだと思うけどね。

 まあ、いいや。黙って考え事をしている僕を、自分達に怯えていると勘違いしたらしいこいつらは、より奥の方――裏町の中心方向――へと連れていこうという素振りを見せている。

 背はそれなりに高いけど細身の僕に裏町を見せて怖がらせてから殴るなり蹴るなりしようって考えてるみたいだけど……、それなら都合がいい。今の僕はとにかく目立ちたくないから、連れていこうとする方向が裏町の外へと向かう方なら、一目散に逃げなくちゃいけないところだったよ。

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