第285話
魔法の火が炸裂し、燃え上がる音がする。
「ぁぁ……」
弱々しいユーカの声。この一瞬見ている間にも焼けた肌が元通りに治癒していっているけど、痛みを感じないという訳ではないだろう。
そして重力に従ってユーカの体は徐々に落ち始める。
「っ!」
一瞬がとても長く感じられるような時間の中で、僕は懊悩する。
これまではユーカの境遇に同情するような気持ちはありつつも、あくまでも他人事として割り切って接していた。ユーカ自身がどう思っていようと、実際に僕自身とは関係のないことだったからだ。
だけど今のこれは、ユーカが血を流し痛みを怖れずに行動した……僕のために。それはユーカが勝手にしたことであって僕が頼んだ訳じゃない、というのは事実だけどそれで納得してしまうのなら僕が僕じゃなくなる。
その一方で、ここでユーカを見捨てずに助けようとすれば、今もまだ広場に増え続けている衛兵を相手にすることになる。殺しまくることになるし、そうなれば向こうも躍起になってくるだろう。
わかってる。冷静に考えれば、ここは一旦ユーカを見捨てて僕は逃げるべきだ。ユーカなら通り魔の件がバレない限りは裏組織に囲われていた一般人だし、そこはヤマキがうまくとりなしてくれるだろう。
だから僕はここを逃れてカミーロの件の疑いを晴らす。その後で、もしユーカに問題が生じているならそっちにも対応する。それが一番“賢い”行動だと思う。
だけどそんな賢さなんて僕は……。
建物の壁を登っていた脚に力を込め、僕も反転して飛び出そうとする。
もちろん視線は落ちていくユーカへと向いていた。
だけどそのユーカの口が微かに動く。まだ治癒しかけの皮膚が痛むようで、ぎこちない動きだった。
「……ぃ……にげ……て……」
「ああ、もう! わかったよ!」
血と痛みをともなうことを怖れずに僕をかばったユーカのことは、もう仲間だと認識している。だけど……だからこそ、そのユーカが覚悟を持って行動したならその意思を無下にすることはできない。なぜならその助けたいは結局僕のエゴだからだ。相手が仲間じゃないなら平気でエゴを押し通すけど、仲間ならその意思を無視することはしたくない。
だから僕は結局、その壁を止まることなく登り切り、その場を逃げ出したのだった。
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