第283話
「隊長、展開を待ちますか?」
女衛兵はやっぱり見た目通りに隊長だったようだ。それが具体的にどのくらいの規模の隊を指揮しているのかはわからないけど、広場に増え続ける衛兵の中には似たような姿のもちらほらといるからそれ程高い地位ではなさそう。
「いや、すぐに取り押さえる。逃げる暇を与えることはない」
……おっと、じりじりと動こうとしていたのはバレていたらしい。
いうまでもなく、さっきこいつらが言っていた僕が殺人犯だというのは誤解だ。いや、人を殺したことがないという訳ではないんだけど、カミーロを殺したのは僕じゃない。
デルタの方の損傷具合からいっても、犯人の目星ならつく。これだけのパワーがあるのは、たぶんヴィオレンツァだろう。僕も知らないパラディファミリーの誰かって可能性ももちろんあるけど、今この街にいるあいつがやったと考えるのは的外れではないはずだ。
だけど、それを話したところで素直に信じてくれるはずがない。パラディファミリーがこれを仕組んだのだとすれば、僕の裏の方の素性だって把握済みだろう。そうだとすると、裏社会の人間の言うことなんてまともに取り合う衛兵なんていないだろうし。
可能性の話をするなら、カミーロが生きていればボーライ家と連絡をとって何とか対処できた可能性もある。キサラギを救出するためということを取引材料にすれば、謀略伯爵だって手を貸しただろうし。けどこうなった以上は、ボーライ家とカッジャーノ家を後ろ盾にした計画も流れたと考えるべきだろうね。少なくともこの状況を脱しない事には話もしてもらえない可能性が高い。
「かかれ!」
考えているうちに、隊長が号令をかけて衛兵達が動き出す。まだその大部分が路地を通り抜けるのに四苦八苦していて、僕から見えている広場に入ってきた衛兵はたいした数ではないんだけど、さっき話していた通りこっちに余裕を与えずに行動する方針のようだ。
腹立たしいくらいに正しい判断だと思うよ。だって実際に僕としては困ってしまっている。
まあ、向こうが思っているのとはちょっと違う困り方かもしれない。正直な考えとして、これだけの数を用意されたうえでも衛兵を蹴散らして突破することは無理とは感じない。後ろの方にはそれなりの手練れも控えているっぽいけど、あくまでも数で制圧するつもりみたいだ。
まあパラディファミリーからの情報でも、僕がそこらに衛兵よりは隔絶して強いってことは伝えられていたんだろう。だけどそれでも甘くみていた、と。だって数さえ揃えればなんとかなると思っているんだから。
冒険者でも雇われていれば、正直もっと困っていたかもしれないけど、まあ奴らはそれが余程の凶悪犯でも人間相手の仕事なんて受けないだろうけどね。
困っているのはむしろこの衛兵達が弱いからこそだ。突破できるとはいっても、この数の多さ。それなりに無理はせざるを得ない。だけどそうすれば大勢の衛兵が死ぬだろう。そうすれば後からこの件の疑いを晴らせたとしても、僕は世紀の大反逆者だ。
それが必要なことなら、ためらいはしないんだけど、パラディファミリーの企みの中でそんなのは腹に据えかねる。
と、なると選択の余地はない、か。大人しく捕まる気はないし、正面突破はだめ。もう手遅れなんて考えたのも既にさっきのことだけど、こうなると広場を囲う建物をよじ登って逃げに徹するしかない、か。背中が攻撃にさらされることになるだろうけど、そこは運に任せよう。
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