第282話

 「もう手遅れだろうけど、ユーカは逃げなよ。連中の狙いは僕なんだろう?」

 

 自分でも言った通りに、もう今にもここまで到達するという位置まで気配は来ているから、今から周囲の建物をよじ登って逃げようとしても間に合わないだろう。

 

 「私は……逃げない、よ」

 「……そう」

 

 だけどユーカ本人にはその気はないようだ。逃げても無駄だから、ということではなくてそう決意しているからって雰囲気だ。

 狙いが僕ならユーカは逃げに徹すれば追われない可能性も高いんだけど、そう決めているならまあ好きにすればいい。

 

 「来た」

 

 見ればわかることをわざわざ口に出すあたり、僕も自分で思っているほど落ち着いてはいないみたいだ。

 

 そして解析のレテラの副次効果で気配を読んでいた通りに、広場の入り口から次々と武装した連中が姿を現し始める。

 男も女もいて若者から中年まで幅広い。だけどその装備は全員が同じで、地味だけど質の良さそうな軽鎧を身につけている。

 いうまでもなく、ヴァイスの治安維持部隊である衛兵隊の姿だった。

 その性質上普段は主として使う短いこん棒は腰に吊るしていて、ショートソードの柄に手をかけている。つまりは既に臨戦態勢ということだ。

 

 と、よく見るとその集団の中から少しだけ装飾の多い鎧姿の中年女が厳しい顔で進み出てきた。

 衛兵達はまだ広場内へと展開を続けているけど、そいつだけは動きが違う。画一的なものじゃなくて、明らかに自分の意思で動いている。つまりは周りに指示を出せるような立場なんだろう。

 

 「確認した、あの謎の魔獣の横に倒れているのは学園のカミーロ教員だ! これより殺人犯アル・コレオを拘束する!」

 

 後ろにいるさらなる上官にも聞こえるようにだろうか、その女衛兵は勇ましい大声で宣言した。

 離れている上にかなりひどい状態になっているカミーロの死体をあそこから見ただけで断定した。そして僕のことも家名まで含めて把握している。

 なるほど、パラディファミリーはそうきたらしい。つまり既に全部手回し済みで、僕は殺人犯に仕立て上げられているってことみたいだ。

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