第281話
二方向で来ているものが、片方は敵じゃないとわかっただけでも状況が良くなったと思った。
数が多いだけの連中を蹴散らせばこの場は乗り切れると思ったからね。デルタはここで死んでいる訳だから、残るファミリーの構成員がばらばらになるのも時間の問題だろうし。
なのにやってきたユーカはとんでもないことを言った。
「とにかく逃げて!」
ユーカはさっきから必死な様子だ。どう見ても僕をからかっている雰囲気ではない。
まあこんな状況でこんな事を冗談で言うはずもないんだけど、僕だって現実逃避くらいしたくもなる。
「いったい、どういう……?」
とにかく頭の中をぐるぐるとしている疑問をそのまま口に出す。質問としてなんの具体性もない最低な聞き方だけど、これが紛うことない本心なんだから仕方がない。
「ごめんなさい、もっと早く伝えたかったんだけど、ヤマキさんに駄目だって閉じ込められて……。でもフランチェスコさんがこっそり出してくれて、それでっ!」
必死だからか、早口にまくしたてるユーカの様子は、どちらかというと学園にいた時のようだった。一連の事件以降はかなりおどおどと話すようになっていたけど、切羽詰まったことで本質的な部分がでているらしい。
それでも色々と話してくれたことで、一応話は見えてきた。僕がさっきヤマキ一家の拠点にいた時にもユーカは警告しようとしてくれていたけど、それはヤマキ達に止められてどこかの部屋に閉じ込められていた、と。
それでどうしようもなかったけど、あの時姿が見えなかったフランチェスコが手助けしてくれたことで、こうしてここまでこれたってことか。
……いや、待てよ。そうなると、ヤマキ一家の連中……少なくともヤマキとその側近くらいはこの状況になることを知っていたってことか?
カミーロの言葉からパラディファミリーがデルタファミリーを唆したと予想したけど、向かってきているのが衛兵だと聞いてその考えが吹き飛んでいた。だけどヤマキみたいな気質の人間が僕を罠にはめる手助けをしたのだとしたら、そんなことをさせられるのはやっぱりパラディファミリーしか考えられないってことになる。
フランチェスコも、もしかしたらその計画に反対して謹慎でもさせられていたのかもしれないね。あいつは馬鹿だから……。
さてそうなると、だ。
パラディファミリーに仕組まれたのだとすれば、のこのことここまで来てしまった時点でもう罠の中。たとえばもっと早くに逃げていたとしても厄介なものが仕掛けられていただけかもしれない。
それでもこの状況よりはましだったかもしれないけど、……もう衛兵だという集団はすぐそこまで来ているから、どちらにしても今さらなんだけどね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます