第280話

 こうなったら仕方がない。

 というか、もう近づいてきているから選択の余地もない。

 

 まあ、単独の方が加速してくれたおかげで、大勢の方はまだ遠い――路地にてこずっている――からこれはこれで良かったかもしれない、と思っておこう。

 

 「……この気配ってもしかして」

 

 単独で近づいてくる気配の距離がかなり縮まったことで、魔力の質というか種類みたいなものまで把握できてきた。そしてそれが知ったものだったから、思わず戸惑ってしまう。

 

 「ユーカ?」

 

 この広場の周囲を囲う建物を乗り越えて姿を現したのは、ヤマキ一家の拠点で世話になっているはずの元クラスメイトだった。

 

 「あ、アル君っ! にげ、逃げて!」

 

 僕の目の前に着地するなりそんなことを言ってきた。

 メンテに利用されていた時とは違ってまともな庶民っぽい服を着ているユーカの左手には、鋭い三本爪もついていない。だけどその雰囲気は日常とは程遠い切羽詰まったものだった。

 

 「あっちのでしょ? 大丈夫、わかってるよ」

 

 どういう経緯で来たのかわからないけど、かなり焦っている様子だったから、とりあえずはデルタファミリーの構成員ぽいのが向かってきているのは把握していると伝える。

 別で向かってきていたのが敵じゃないとわかっただけでも僕としてはかなり状況が良くなった。

 

 「戦っちゃ駄目、あの衛兵とは!」

 「……衛兵?」

 

 

 思わず間抜けな表情で聞き返してしまう。

 今も路地をのろのろと抜けてこようとしている大勢って、復讐にきたデルタファミリーじゃないってこと?

 え? だとしたら、なんで僕が狙われてる? 表向きはただの学生なんだけど……?

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