第276話

 薄暗い路地からひらけた場所に入ったことで、急な光が視界を白く染める。

 

 「ん……」

 

 といっても光量も知れているから、すぐにそれも目が馴染んで周囲が見えるようになってくる。

 この場所に入る前に解析魔法を周囲に発動しておいたから、中に入ったことで状況は一応掴めている。かなり弱い反応がひとつで、それはおそらくデルタではない。部分的に魔獣と化している荒々しい魔力ではなくて、これは純粋な人間のものだ。

 

 「っ!?」

 

 ということは見えるようになる前からわかっていたけど、実際の光景が視界に入ってくることで驚かされることとなった。

 

 ……中にいたのは一人ではなく二人。ただしその片方は既に死体――ひと目でそうとわかる程度には損壊している――だった。しかもそれは身体の大部分が白い肌のいたるところに棘が生えた魔獣となっているようで、あんな魔法道具がそこら中にある訳でもないのなら、それはデルタであるに違いなかった。

 だけど僕が驚いたのはそっちじゃない。あれからさらに魔法道具による浸食がすすんだ状態のデルタをここまで壊せる奴がいるというのはともかくとして、裏社会の人間の末路としては珍しいことでもない。

 それよりももう一人の方、解析魔法でさっきから察知していた弱々しい反応の主だ。反応が弱かったのは入り組んだ路地のせいだけじゃなくて、本人が死にかけていたからということだったらしい。

 

 「……一体、ここで何が?」

 「……ひゅう……ぜぇ……」

 

 そんな死にかけの人物に近づいて声をかけると、微かな呼吸音だけが返ってくる。だけど見開かれた目だけはしっかりとこちらを向いていた。薄黄色の髪は本人の血で赤黒く汚れていて、整った顔も痣だらけで見る影もない。

 この人の灰色の瞳をこんなにしっかりと見るのは初めてかもしれない……。

 そんなことを考えながらも、とにかく状況を知るべく質問を繰り返した。

 

 「何があったというのですか、カミーロ先生」

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