第274話
ヤマキ一家の拠点に来た時点では、情報をもらってから一旦戻って態勢を整えるつもりだった。
あの状態のデルタを追っているんだ。何かを掴んだのであれば事は一刻を争うということはわかっていた。だからこそ、ライラには準備をしてもらっておいた訳だし。
だけどヤマキにはこのまますぐに向かえと言われてしまった。もちろんすぐにもヤマキ一家から誰かを追わせるけど、とにかく今この瞬間にもどこかへいってしまうかもしれないということだった。……まあ確かに、街中をそんな素早く移動できるのは僕くらいだろうから、わかるけどね。
それにデルタファミリーはその組織構造からして厄介な連中で、僕だってヤマキほどじゃないにしても気にしていた。今僕らが過ごしているヴァイスの街で好きにされて鬱陶しいし、何よりヴァイシャル学園にまで手を出されたからね。
だからこそ、その最後の詰めであるデルタとの戦いは無視できない用事だ。
なんでそんなことを改めて確認しているのかというと……、正直にいうと内心では別のことが大きな部分を占めているからだ。
カミーロからのあの提案。ボーライ家とカッジャーノ家を後ろ盾に新しい裏組織を立ち上げ、それでパラディファミリーを潰すという、あれだ。
十歳で前世の記憶を思い出し、この世界と自分の人生がゲーム『学園都市ヴァイス』の中で描かれていたものと一致していることに気付いた。そこからアル・コレオとして持っていた才能と、ゲーム知識を利用して色々とやってきたから、その結果としてゲームのシナリオとは違うことにもなりつつある。
現状では、最大の障害がそのまま残っている。言うまでもなくパラディファミリーのことだ。
あれがある限りは、僕の悪役貴族として背負わされた宿命みたいなものは消えない気がする。いや、気とかじゃなくて事実か。コレオ家に生まれた時点で逃れられはしない。
そう、逃げるも隠れるのも無理だ。……山奥にでも引っ込んで仙人みたいな人生を送るつもりであればもしかするとだけど、そんなのは僕の性分からしてありえないしね。
そんなだから、気が逸るというかそっちの話が頭の中をぐるぐるとしているのは否定できない。誰と何を話していても気もそぞろって感じだ。
良くないか……? うん、良くないな。窮鼠猫を噛む、なんて使い古された言葉だけど、これこそまさに言い得て妙だ。あの指輪で人ならざるものになりつつあるデルタが、おそらくは必死で迎え撃ってくる。そこに別の事を考えながら向かったりしたら、どんな痛手を負わされるか……。
まずは確実にデルタとの決着をつける。その後のことはその後だ。
ちょっと神経質になってしまったけど、目的地に着く頃には今の敵を見定めることができた。目的地――そう、ヤマキから聞いたデルタの潜伏地はもう目の前だ。
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