第271話

 カミーロからの提案を受けてから数日が経った頃に、ようやく事態が動いたようだった。

 

 「ご主人様、ヤマキ一家の拠点まで来て欲しいとのことです」

 「うん? ああ、わかったよ」

 

 拠点にいたところで、玄関先に誰かが来たから対応しにいっていたライラが戻ってくると、そう伝えられた。

 二日に一回くらいの頻度ではライラかサイラに進展を聞きにいってもらっていたけど、こうして来るように言いに来るってことは、ついに何かがあったと見て間違いない。

 何かっていうのはいうまでもなく、デルタの居場所のはず。

 

 「よし、ちょっと話を聞いてくる」

 

 早速動こうとすると、ライラが少し慌てた様子を見せる。

 

 「少しだけお待ちいただけますか? ラセツがもうすぐ戻りますので」

 

 ああ、そうか今はラセツはサイラと一緒にでているんだった。そしてグスタフも今日はこの場所に来ていない。となるとライラしかいないということになるんだけど、この状況でのお供としては不十分だと自分で判断した訳か。

 普段ならヤマキの所にいくくらいならライラが同行するので十分、というかむしろ卒なく振る舞えるこの地味だが整った容姿のメイドが適任とすらいえる。だけど今回は変異したデルタとの戦いが予想されるから、戦闘能力に長けたラセツが戻るのを待てということなんだろう。

 

 「いや、話だけ聞いたらここに戻るから大丈夫」

 「……わかりました。ではラセツにはすぐに出られるよう準備をさせておきますので」

 

 一旦は呼ばれて話を聞きにいくだけだからね。僕一人でもいいと伝えた。本人がいうようにここに留まって後の準備をしてくれた方が助かる。

 

 「いってらっしゃいませ」

 「うん、いってくる」

 

 すぐにまた戻るつもりということで、普段街歩きする時とたいして変わらない格好で出発した。まあ僕は鎧を着たりしないから、服装としては戦闘に向かう時でも別に変わらず普段着なんだけど、そういう時は腰にポーチなんかをつけて回復用の魔法薬も多めに持っている。だから今は変わらない格好といっても実際にはそういう持ち物が軽いってことでしかない。

 まさか狂乱したデルタがヤマキ一家の拠点に襲撃を掛けてきたりはしないだろうから、そんなこと気にするようなことでもないんだけどね。

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