第269話
「ついに……動き出すのだな」
カミーロとの話を終えて、学園からも出ようかというところでグスタフがぽつりと口にした。
まさに呟くというくらいの小さな声で、力がこもっていた訳でもないけど、軽い気持ちで言っただけではないということは横に首を向けるまでもなくわかった。
「いつまでもいいようにされるままっていうのは、気に食わないからね」
僕も軽い調子で返す。
だけどそれに込めた気持ちまで軽いわけでないのは僕の方も同じだった。
カミーロの提案は衝撃的なものだったけど、その内容は結局のところ単純だ。つまりフルト王国内で動乱があるからそれに乗じて僕らの利益をとりにいく。
まあボーライ家の謀略に駒として利用される形ではあるんだけどね。ボーライ伯爵はもちろん本気でパラディファミリーに腹を立てているんだろうけど、それとは別に現ドン・パラディであるサティよりも、僕の方が扱いやすいと見ているんだろうね。今回の事が終わった後は僕に作らせた裏組織を新しいコレオ家の裏の顔に据えて、王国内での影響力を表裏問わずに増すってつもりだろう。
さっきカミーロから聞いたのはパラディファミリーの本部に僕が潜入してキサラギを助け次第、組織の中枢を破壊。それと同時に立ち上げた新たなファミリーで外から攻撃。サティの影響力が薄い末端部分はそのまま吸収して僕が成り代わる、というものだ。その後のことは聞いていないし、恐らく説明をぼかしたのは意図的だろう。
予想通りであればボーライ家やカッジャーノ家に対して僕が逆らえなくなるような何らかの首輪を用意してあるはずで、おそらくそれで良いように扱われることになるだろう。
もちろんそれを良しとするはずもないから、そこからは僕とボーライ家との争いになっていくだろうね。今の僕を頭から押さえつけるパラディファミリーを排しても次がまた現れるだけ。生きるっていうのは争うこと……なのかもしれないね。
「楽しそうだな」
「……え?」
不意にグスタフからそんなことを言われて戸惑う。思わず頬に手を当てて気付いたけど、実際に僕の口角は上がっていたようだった。
笑っていた……?
無意識に自分が浮かべていた表情に驚いてから、驚くようなことでもないかと思い直す。
しがらみを振り払えて清々するから? サティにやり返してあの時の借りを返せるから? ……たぶんどっちも違う。
「大きな喧嘩になりそうだからね」
「……ふ、そうか」
気付いたところで素直に言うと、グスタフもまんざらでもなさそうに応じた。
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