第268話
パラディファミリーがボーライ家を敵に回して構わないと考えていると、さっき聞いた時には驚いた。
一応とはいえ相談役という立場にある僕がそれを外部の人間から知らされたということは置いておくとしても……、フルト王国を荒らすようなことをしようとしているなんて。
裏組織というとならず者の集団ではあるけど、国が亡んだり衰退したりするようなことを望む訳じゃない。というより、悪い事をして金を稼ぐためには国は繁栄していてこそ、だ。
もしかするとサティは権力欲に目覚めたのか……? 国内最大の裏組織の長では満足できず、表の世界でも上を目指そうとしている、とか?
いや、あんな狂人の内心を推し測ろうとしても無駄か。商会とかじゃないんだから、そもそも合理的な行動をとっているとも限らない。
というより、僕の方にしたってサティや幹部達の考え次第では理解を示すなんてつもりはないし、どういうつもりなんてのは関係ない。結局のところ、何をするかということだけが問題で、それに対してしたいように対処するだけでしかない。
そしてパラディファミリーでいいように飼い殺しにされるのが僕のしたいことかというと、断じて違う。だから力を蓄えて、サティに再び挑む機会を待っていたんだけど……。
ヴァイスの外では世の中が中々に不穏な情勢となっているらしい。しかもそれが向こうの方から僕に関わって来るなんてね。
結論からいえば、強力な後ろ盾を得たうえで、サティどころかパラディファミリーそのものを潰せる機会だなんて願ってもないものだ。
どちらにしてもドンとその取り巻きは生かしておく気なんてなかった訳だから、組織ごとっていうのはむしろ合理的ですらある。実際にそれをやると他の貴族とか王家、つまりは国そのものを敵に回すだろうから手段として考えていなかったけど、まさかのお墨付きだ。
なのに何を悩むのかというと、話は単純で警戒しているってこと。僕にとって都合が良すぎる。
ボーライ家が新しく作らせた裏組織を首輪と紐で繋ごうとするのは当然だろうけど、それだけで済むとも思えない。知らない間に何かを仕掛けられて、全く逆らえない状況にでもされてしまえば、全くもって笑えない。
飼い主としての最悪さということなら、サティもボーライ伯爵もたいして変わらないだろうしね。というか、そもそも飼われている状態が気に食わない訳だし。
メリットは大きいけど、リスクもまた大きい。
そんなわかりやすいといえばわかりやすい話だけど……、どうするか。
……いや、考え込むまでもないのかな。少なくとも情勢が大きく動くことには違いないし、その後で問題が残ればまたそれを叩き壊すだけのことだ。
そもそも、僕がこれを断ったところで――それを全く咎められなかったとして――ボーライ家とカッジャーノ家は別の誰かをその役に据えるだけだろうし。せっかくの動乱を傍から眺めているだけになるなんてごめんだ。
「いいですよ。……詳しい計画は?」
だから僕は、カミーロからの申し出に質問で返したり条件を付けたりすることもなく、二つ返事で了承したのだった。
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