リヴィラン ～どう進んでも死ぬ予定の悪役貴族、思い出した前世も悪人だった～

第266話

　まずカミーロが僕らを連れてきておいて面倒なやり取りをしていたことの理由はわかった。僕がパラディファミリーに所属していることも、コレオ家が裏のある貴族家であることも、どちらも事実だからそこを警戒したことを責められるものでもない。

　そして僕らやヤマキ一家がヴァイスでの裏社会の支配権を掛けてデルタファミリーと争っている間に起こっていた出来事についても知った。

　……ということなんだけど、知ったとしても全くもって納得はいっていない。

　結局のところ、四文字を操るあのキサラギ・ボーライがたいした抵抗もできずに連れ去られている理由がわからないままだ。

　カミーロからすると、その答えがまさに僕らだと思っていたみたいだけど、こっちからするとそれは違うと断言できる。

　そして心当たりというのは、結局あの時のインガンノだろうということになるんだけど……。

　……欺瞞、か。

　あのインガンノのパラディファミリーにおける称号の話だ。それは組織内での役割を示すものに過ぎないんだけど、そう考えるのが唯一しっくりとくるのかもしれない。

　「キサラギ先輩はおそらく、ヴァイスに来ていた幹部の一人に口先で丸め込まれたのではないかと」

　「それは……っ。しかし貴族ですよ？　それもボーライ家の」

　まとまった考えを口にすると、カミーロが戸惑っている。だけど言いたいことはわかる。貴族というのは騙したり丸め込んだりすることを得意とする生き物で、ボーライ家というのはその中でも特に“純度”が高いことを意味する言葉だ。だからこそ、力ずくでの誘拐を第一に考えた結果として、不可解なことだと僕は思ったし、カミーロは僕らを疑った。

　「あり得そうかどうかではなく、実際に起こったことから考えるべきでしょう」

　「結果という現実を受け入れろということですか……なるほど、耳が痛いですね」

　実際に起こった出来事に対して、「そんなことはあり得ない！」という思い込みに囚われていたのがさっきまでの僕やカミーロだ。特にカミーロみたいな立場の人間は現実主義者的思考を求められるだろうから、前提にこだわっていたのは「耳が痛い」ということなんだろうね。

　「そういうことができそうな幹部がいた、と？」

　「はい」

　カミーロからの重ねての確認に、僕ははっきりと肯定を返す。

　「……」

　しばらく無言で情報を噛みしめるようにしているカミーロだけど、考えていることは多分わかる。僕を信用できるのかどうか、というところだ。

　カミーロは元よりカッジャーノ家に関することを打ち明けていたし、今回もしばらく探った後とはいえ、僕を疑っていたことまで口にした。それに応じて僕の方もパラディファミリーの内部情報を漏らすような真似までしている訳だけど、そこを真意かどうか測りかねている、って感じじゃないかな。

　だけど、その検討の結果は見えている。ここまできて僕を信用せずに話を蹴るようであれば、そもそもこんな話し合いの場を持つ必要なんてなかったからだ。