第265話
「なんですか、突然……」
この演習場へと連れてきてから今までのやり取りはなんだったんだという非難の意思を込めて呟いたけど、カミーロは全く気にしていない。真剣な表情でじっとこっちを見たままだった。
「不快にさせたのなら謝ります。ですが、必要なことだったのですよ。あなたの立ち位置を見極めることが」
無視されたのかと思ったところで、カミーロは謝罪し、説明してくれた。まあ、説明といってもこれだけだと何のことだかわからないけど。
「キサラギ先輩をさらった犯人ではないと、ようやく納得してもらえた……ということで?」
だから立ち位置というのが何を示しているのかを具体的に確認する。初めは僕らのことを疑っていないといっていたのに、憶測はついているから話をしにきたと翻した。そんなカミーロの態度はわかりにくいものだったけど、少なくともこの時点で襲い掛かってきたりはしていない。それを踏まえて、元々は僕らも実行犯の一味と疑っていたけど、今は関係者くらいにしか見ていない、というところだろうか。
実際のところ関係者も何も僕らは本当に何も知らないんだけど、とりあえずカミーロからはそう見えているのであれば腑に落ちる。
「元よりあなたたちが彼女をさらった犯人の一味であることは知っていたのですよ。その一味は一枚岩ではないということも……」
次にカミーロが口にしたのはそんな言葉だった。犯人ではないけどその一味とは“知っている”……。というか、そうか、そうだったのか。キサラギをさらったのはさっき危惧した通り――
「パラディファミリー?」
「……」
――僕がようやくたどり着いた答えを、カミーロは無言で深く頷いて肯定する。日付の一致からさっき頭を過ぎっていたものが実は正解であったらしい。
けど、そうなるとおかしな点もあった。
「聞いてもいいですか?」
「どうぞ」
僕が質問してもいいかと尋ねると、カミーロはいかにも教師然とした表情で鷹揚に促してくる。
「一つ、キサラギ先輩は実力者です。幹部が動いたとしても街の一画も吹き飛ばさずに連れ去ったというのが不自然です。そして二つ目、パラディファミリーがボーライ伯爵家を敵に回す意味がわからない」
以前のやり取りからカミーロがコレオ家やパラディファミリー、そして僕の立場について知っていることはわかっているから、詳しい事情は飛ばして質問した。
そう、パラディファミリーも裏組織とはいっても結局は王国に連なる組織。反乱を起こした訳でもない貴族にそんなことをする意味がないはずだ。
「一つ目はまさに私が君を疑っていた理由です。実際に街のどこにも魔法戦が行われた形跡がない。つまりキサラギ君は自らパラディファミリーの招待に応じたということです」
……なるほど、だからパラディファミリーの中で僕が浮いた存在であるとは知りつつも、今回の誘拐に関わったとの疑いを拭えなかったのか。彼女を騙したり唆したりできそうなファミリーの構成員が僕だった、と。
「そして二つ目は単純にそのままの意味で、パラディファミリーがボーライ家を敵に回す気でいる、ということですよ」
「……は?」
国内の大貴族相手に内紛を起こそうとしているって? いくら厄介者扱いされている“相談役”だからって、何も聞いていないんだけど……。サティは戦争でもする気だっていうのか?
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