第262話
声を掛けてきたカミーロはそのまま僕らに移動を促してきた。つまり他人には聞かれたくない話をしたいということなんだろう。
僕らがデルタファミリーを追っていた中で、学園内での動きを察知して探っていた時にカミーロがカッジャーノ家という王国の裏にも絡む貴族家の出だということを知った。
向こうからこちらへの認識としては、どうにも僕ががっつりとパラディファミリーに取り込まれた一員だと思われてそうな感じもあったんだけど……、そこは今はどうなっているんだろうね。気にはなるけど今それを聞くような場合でもないか。
そんな風にちょっと考え事をしていると、すぐにカミーロの目的地には着いた。そこは学園内にいくつかある演習場の一つだった。
「ここは……」
「ふふ、懐かしいでしょう? ……いえ、それほど時間は経っていませんか」
グスタフが思わずといった風に呟くと、カミーロが入ってきた扉を閉めながら楽しそうに言っている。
ここは学園への内通者含むデルタファミリーの四人とともに、僕らとカミーロが争ったあの演習場だ。あの時は成果発表会のための物置として使われていたから資材やら何やらで狭く感じたけど、今見ると他の演習場と変わらないくらいには広い建物だ。
そしてあの成果発表会も思えばもう二週間近く前のこと。カミーロが思わず「懐かしい」なんて言ってしまうのもわからないでもない。僕らもそうだけど、カミーロの方もあれから今日まで忙しくしていたということでもある。
まあそんなことはどうでもいい。それより、カミーロが僕らに何の用があるのか、だ。
「カミーロ先生はお忙しいのですか? 疲れている様子ですが」
まずは適当に話を振ってみる。ただの教員なんかではないこのカミーロ相手に、腹の探り合いで優位に立てるとも思ってはいないんだけど、やらないよりはやるだけやっておいた方が得ってものだろうし。
「ははは、君達ほどではないよ……と、言いたいところだったのですけどね」
「君達ほど」なんて言うってことは、やっぱりカミーロはどうやってかある程度僕らの情報を掴んでいるってことらしい。僕らの情報っていっても、そこらの学生の動向なんかじゃない。ヤマキ一家やパラディファミリーといった裏組織にも首を突っ込んで探っているってことだ。
カッジャーノ家というのは、思ったよりも深く闇に沈んでいるのかも。
「ちょっとした事件があって大変だったのですよ。そして、それが正にここまで来てもらった理由でもあります」
おっと……、一旦向こうの状況を探るだけのつもりで振った話が、ちょうど今回の用事だったらしい。
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