第261話

 「むぅ……」

 

 平穏無事で何事もないヴァイシャル学園での日常。そんな中に在って、僕は授業が終わるなり溜め息を吐いていた。

 その理由はもちろん、平穏無事なんていうのが上っ面に過ぎないからで、僕はその裏で進行している諸々を把握しているからだ。

 周囲の楽しそうな学友達がうらやましい……とは思わない――何も知らない馬鹿は搾取されるだけだから――けど、つい目で追うのまでは止められない。……疲れてるのかな、僕は。

 

 「進展がない状況は疲れるな」

 

 そんな僕の様子を見て、グスタフが声を掛けてくる。事情を共有する相棒の顔を見て、眉間から少し力が抜ける辺り、やっぱり少し疲れているのかもしれない。

 

 「何かいい情報が向こうから転がってこないかなぁ」

 「そうなるといいが……」

 

 僕の楽観的な言葉に、グスタフが小さく苦笑を浮かべた。とはいえそんな現実逃避もしていられないと、僕らは荷物をまとめて教室から出る。

 周囲の不思議そうな視線が僕らに集まったけど、まだ次の授業は残っているのだからそれも当然だろう。だけどこの状況で悠長に学生している訳にもいかないからね、一応顔を出すために来ただけで、一つは授業を受けたから帰らせてもらう。

 

 お察しの通り、デルタを拠点で追い詰めたにもかかわらず取り逃がしてから、数日が経っても足取りを追えていなかった。

 ヤマキ一家もかなり力を尽くしてくれているんだけど、なにせ逃げた相手は部分的にとはいえ魔獣化した人間なんて特殊な存在だ。痕跡があるようでなく、情報も都市伝説みたいな扱いで尾ひれまみれになってしまっていて、有用な情報をより分けるだけでも一苦労している。

 

 「……ん?」

 

 そんな状況で苦労していたから転がってこないかなんて言っていたんだけど、思いもよらないものが寄ってきているのを目にして思わず首を傾げる。僕と同時に気付いたグスタフも、同じく不思議そうに眉根を寄せていた。

 

 「アル君、グスタフ君、ちょっといいですか?」

 「カミーロ先生?」

 

 にこやかに声を掛けてきたのは、目を細めた笑顔のうさん臭い、カミーロ教員だった。

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