第258話
「あ、あち……あ……アッチーディアぁ!」
デルタが三度、魔法道具の名前と思われる言葉を叫んだ。
「っ!」
とっさに距離をとろうとする。理想には遠くても現状でのかなり良い一撃が入ったから、ここから畳み掛けたかったんだけど、ここまでのことを思い出すとそうもできなかった。
ああして名前を宣言することであの指輪を使うと、その度にデルタは体の一部を魔獣化させてきた。一度目は左手、二度目で腕まで、だ。
「ぎゃああああああぁぁぁ……」
「……ん?」
と、思って少し離れて警戒していたんだけど、デルタの様子がおかしい。大きな声はこれまで通りだけど、二度目までは攻撃的な意思を含む咆哮って感じだった。だけど今回のこれはただただ苦しそうな叫びで、しかも段々と尻すぼみになって力尽きているようにすら見えた。
「ぐ、ぎゃ、あぁ……」
だけどその声の力のなさとは違って、別に倒れたり膝をついたりしている訳ではない。しっかりと立っているし、その脚が床を踏みしめる力強さはさっきより増したようにも感じられる。
そして、今回の魔法道具の行使でデルタは左腕から肩を超えて左胸の辺りまで白肌の異形と化し、肩からはさっきはなかった棘が生えだしている。その痛みもかなりのようで、棘が少しずつ伸びるごとに叫び、呻いている。
口から涎をだらだらとこぼすほどに苦しんでいるのは、これまでと違って異形化が胴体まで及んだからだろうか? 手や腕と違って胴体には内臓がある訳だから、そこが変異するというのは本質的に体が魔獣と化していくということなんじゃないだろうか。
というか、内臓は内臓でも今変異したあの位置って……。
「ラセツ、ルアナ、警戒を」
「わかったのじゃ」
「……? ……はい」
「……」
さっきまでよりも大袈裟に苦しむデルタはすぐに動き出す気配がなかったものだから、警戒は解かずに部屋内をぐるっと移動してラセツ達の近くまで戻ってきた。どうにも嫌な予感がするということで忠告したけど、ラセツは素直に、ルアナは少し怪訝そうにしながら、それぞれ頷いてくれた。ヴィオレンツァはやっぱり無言だったけど、ほんの小さく頷いたようだった。
「ぁ……ぁ、ぁ……ぅ……ぁ」
左肩の棘が生え切って止まり、左胸に及んでいた魔獣のように異形化する浸食もまた止まったようだけど、その過程で苦しみ抜いて疲れ切ったように喘いでいる。だけどやっぱりその立ち姿はむしろ力強くて、こっちを睨む目も爛々と輝いている。
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