第257話
右足で床を蹴り、突進してきた勢いとあわせて腰を回し、連動して上半身、肩、そして右腕を思い切り撃ち出す。放たれた右拳に緑光が集約して、デルタの胴体に到達すると同時に全てが解放される。
本来であれば風刃をまとって殴っても、対象の外側を切り裂くだけだ。だけど本物の拳打は外ではなく内側を破壊する。それは魔法体術でも同じで、完璧にうまくやることができればまとった魔法も対象の内側で炸裂する。
「ぐ、がががぁぁ」
叩きつけた拳の当たっている位置でデルタの着ていた服が破れ、腹にできた裂傷から血が噴き出す。
……うまくやれたと思ったけど、まだ僕は未熟らしい。放った一撃の二割か三割くらいは外側で威力を発揮してしまっている。
七、八割も出せているなら十分……というのは正しい認識ではなくて、実はこれは本当に未熟な攻撃だ。エネルギーの全てを狙った通りの破壊力として使うことができれば、相手に与えるダメージというのは数割増しどころの話ではなく何倍にもなるはずだ。……はず、ということで確証はないんだけど、手応えとしてそうであるはずと、それこそ前世から感じている。
「ととさま!」
「やったのですか?」
「……」
ラセツが嬉しそうにして、ルアナは状況を確認しようとしている。ヴィオレンツァは無言だけど、何やら興味深そうな目にも見えるから、同じ徒手空拳での戦い方として思うところがあるのかもしれない。まあ純粋な戦士であるヴィオレンツァと魔法を混ぜて戦う僕では全然違うんだけどね。
「まだ!」
だけど僕はデルタを挟んで向こう側にいる仲間に警戒を促す言葉を発した。直接殴ってわかったけど、変わっているのは腕だけでもあれはもう人間じゃなくなっている。手ごたえが異様に重くて、人間の肉や骨ではないことが瞭然だった。
「……ぁあ、……ぁ、……お前ら、……ころ、……ろして、……ぅがあぁあ!」
そして当のデルタは部屋の中央で、上半身の残った服を左手で引きちぎりながら戦意を失っていない。いや、戦意なんて人間的な感情じゃないな。あれはもうただの敵意というか、動物的な感情の昂りを、言葉に聞こえるだけの鳴き声として発しているって感じだ。
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