第256話
体の前に持ち上げて構えた両腕に衝撃。
「くぅっ」
その衝撃で絞り出されるように声がでつつも、体が後ろへ飛んでいくのを感覚で認識する。
「ぁぁぁぁあああがあああああ!」
踏みとどまって顔を上げてみると、部屋の中央では左腕が変異したデルタが狂ったように叫んでいる。
踏み込んできたわけではない……?
「ぁぁ……ぁあ……」
デルタがそのまま再び左腕を振り上げる。だけどさっきより声に力がなくて、表情もうつろになってきているように見える。
変異が進んだ時にもかなり苦しんでいたようだったし、あの指輪は相当に身体的負担が大きいということなんだろうか。そういえば血濡れの刃団のタマラが持っていたあの指輪は精神に負担を掛けるような物だったし、ああいった形の古代魔法道具はそういうものなのかもしれないね。
いや、悠長に様子をうかがっている場合じゃないか。
今もデルタと僕の間の距離は――弾き飛ばされたから――空いているけど、さっきの一撃からすると“届く”と考えるべきだろうね。
訳のわからない状況でも身を守ってくれた岩の籠手がぼろぼろと崩れて落ち、床につくまでに欠片も消滅していく。二文字で発動した魔法体術はやっぱり負担が大きくて、そう何度も攻撃を受けるまで維持できるものでもない。
向こうが再度攻撃してくる前に反撃したいところだけど……、どういう攻撃か把握しきれていないのに防御を疎かにするのもまずい。
……いや、そうじゃないか。今は――
「心のごとく、燃えて吹け」
「ぁぁぁああ!」
――独りで戦っている訳じゃない。
僕から見てデルタを挟んだ向こう側で、ラセツが独特な詠唱をし、その手から火炎放射器のように炎を噴き出した。それは片腕が魔獣化したデルタの背を焼き、腕を振り上げた体勢のままその攻撃を止めることに成功している。
この状況なら、こっちから反撃ができる!
「
すぐさま腕に緑光の風刃をまとわせ、空いた距離を詰めにかかる。さっきの岩籠手の反動で腕は痛むけど、あと数回攻撃する程度なら何の問題もない。
僕の攻撃にちょうど合わせるようにラセツは炎を放つのを止め、デルタはもだえながらもこちらを睨みつけるけど、どう見ても瞬時に動いて攻撃できる様子ではない。
「おらぁっ!」
殺してしまわないように、しかし確実に動けなくするため、僕は風魔法の拳打を突進の勢いのままにデルタの腹へと叩きつけた。
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