第253話
私は栄えあるパラディファミリーの幹部にして、敬愛するドン・パラディの片腕でもあるヴィオレンツァ。ファミリーにおいては直接的な戦闘を得意とし、“暴力”の称号を与えられてもいます。
責任ある立場として普段は指示を出す側であり、そしてドンの傍にはべる者として恥ずかしい振る舞いは許されないということもあって、私は己の言葉や行動というものをそれにふさわしくするようにもしています。
とはいえ私を含む幹部が直接動くようなことというものもあります。ファミリーとして見過ごせない大事や、何よりドンが興味を持ったようなことであれば尚更です。
今回は正にそれで、血縁上は甥であり、ファミリーの後継者でもあるアルの近況を探ることは私達が出向くに相応しい仕事といって差し支えないでしょう。
いくら直系組織であるヤマキ一家が苦労しているといっても、下部組織は下部組織。へまをすれば別の組織にすげ替えるだけの道具に過ぎません。だからそのヤマキ一家に助力するために私やインガンノが来たといっても、実際のところというのはアルであれば察しているでしょう。なかなか賢しい人のようですから。
……アルが後継者だという部分については、ファミリー内でも真に受けている者はいないのですが、ね。私を含む幹部であれば、フルト王国とコレオ家の間にある暗い繋がりと、我らパラディファミリーが背負う宿命ともいえる取り決めについては当然知っています。その上でなお、自らに“狂気”を冠するあのドンがそんなものに唯々諾々と従うとは思えないからです。
コレオ家は男爵家ながら代々優秀な人物を輩出してきた血統であり、アルもいかにもそうした貴族家の出身らしいとファミリーとしては評してきました。頭が良く、魔法の腕が秀でており、自らのための愚連隊を率いる程度の魅力もある。
幼い頃には尊大で自己中心的な性格があまりにも過ぎると貴族社会でも噂されるほどであったものの、十歳を過ぎた頃からは優しく理知的な面が目立つようになった。……それを素直に改心したなどと捉えるような者は貴族社会にも裏社会にもいないでしょう。しかし外面を良くして人間関係を円滑にするのは貴族の子弟としては優良な資質に違いありません。
優秀で腹芸もできるアルはパラディファミリーを継ぐ者としてもふさわしいでしょう。……過去であれば、ですが。
私を含め当代の構成員はもう知ってしまっているのです、ドンという存在――サティ様という名の圧倒的な“狂気”を。だからこそ、ただ「ふさわしい」だけの後継者など、後継者足りえないのです。
そうはいっても、そのような意見など関係ないのですが。幹部といっても私など結局はいち構成員に過ぎない。裏組織というものは頭領の意思を反映する手足のようなものなのですから、ドンが命じた時に命じたことをすれば良いのです。
……私などがドンの心中を推し測るなど不敬もいいところであることは承知のうえで、アルに相談役として経験を積ませて素直に継がせるなんてことはありえないと思います。今回のこともその時のために探りを入れるということか……あるいは既に何かが動き始めているかもしれないですね。
そういうことはインガンノが担当するところですから、もしそうであれば今回送られたのが私だけでなかったことにも説明がつきます。とはいっても、あの子のすることはよくわからないことも多いのですけどね。
何であったとしても、正直にいって退屈なこんな仕事はさっさと終わらせてコルレオンに帰りたいものです。
逃げようとしていたドブネズミを叩き潰したくらいで苦言を呈されるなど本当に面白みのない仕事……そして相談役です。
私はパラディファミリーにおいて“暴力”の称号を与えられた者。そんなこともわからないなど――
「口を開けて? ……さあ、飲んで」
「……ぁぅ……ぅぐ……ぅあ゛あ゛あ゛!」
――汚れた手を拭った後は傍観に徹していた私の目には、普段通りに優しげな雰囲気のままで、瀕死で呻くドブネズミに魔法薬を飲ませるアルの姿が映っていました。それが憐れみからの行為ではないことは、的確にかろうじて死なない程度の量に留めていることが示しています。
自分が顔を焼き、両脚を潰した相手に対して、攻撃的になるでも享楽的になるでもなく……またもちろん怯むでもなく、ごく普通に接する。
報告では暴力にもためらいがないとは聞いていましたが、それは正確ではないと、この目で見たことで理解しました。あれは必要であればためらわないという冷酷さとかそういう種類のものではなく、暴力に親しみ、それが当たり前に自分を構成するものだと認識しているような感覚でしょう。
……そう、あの危うい立場の後継者は、……アル
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