第252話

 デルタファミリーの中心メンバーにして幹部は四人で、その中で戦闘担当はジゴロウだったんだろう。実際にあいつは侮れるような相手ではなかったしね。

 そして頭領のデルタはというと、身のこなしがどうみても戦闘の素人。だけどそれを補うために古代の魔法道具を所持している、と。

 残りの二人はおそらく例の依存性が強い魔法薬の担当で、製造の指揮とか調合法の改良とかをしてたんじゃないかな。実際に不意を打ったヴィオレンツァの攻撃に対して反撃や防御どころか悲鳴を上げることすらできなかったようだし。

 

 だから、片割れのこいつも恐らく同程度。僕がいつものノリで殴ると、思っているよりも簡単に死んでしまうだろう。

 

 「よっ……と」

 

 大袈裟なくらいに加減して、ほとんど撫でるような感覚で拳を白衣の女の頬にぶつける。

 いくら相手が弱そうだからといって、こんな程度の勢いでぺちんとやってもダメージなんて与えられるはずもない。

 

 「や゛あ゛あ゛ああ――っ……ぅ……っぁ」

 

 距離を詰めたことで目前にいる白衣の女が口から魂を吐くかのような悲鳴を上げ、すぐにそれも途切れて無言でのたうちまわる。

 

 もちろんこれは打撃の痛みにもだえている訳ではなくて、拳にのせておいた火魔法のおかげだ。威力を抑えた爆発もなければ超高温でもないただの火・・・・が顔の前面にまとわりつき、派手に喚いたせいで喉が焼けた愚か者が出来上がったという訳だ。

 ユーカの時なんて威力を加減してない火魔法を、一回といわず何回も使ってようやく心が折れたっていうのに、のたうつことすら止めたこいつはたったこれだけでもう限界らしい。

 

 ……おっと、思い出に浸っている場合ではなかった。間違っても逃げられないように――

 

 「テラ滞留スタレ

 「っ! ぅぅぅぅぅ!」

 

 ――ごつごつとした岩の塊を滞留制御で女の脚を覆って出現させる。ごりごりという膝から下が砕ける音がして再びのたうっていたから、まだ動く元気は残っていたらしい。やっぱり念のために逃げられないよう対策しておいて正解だったね。

 

 ……! おっと、危ない。

 

 「口を開けて? ……さあ、飲んで」

 「……ぁぅ……ぅぐ……ぅあ゛あ゛あ゛!」

 

 常備している魔法薬を取り出して、ほんの数滴だけ飲ませた。焼けた喉をそのままにしたら死んでしまうところだったからだけど、声が出せるようになったらなったでうるさいな、こいつ。

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