第251話
デルタは一度さがって距離をとったものの、人数で勝るこちらに時間まで与えても不利になる一方と判断したのか、すぐにまた突っ込んでくる。
「うがぁぁぁ!」
気合いの咆哮というよりはもはや破れかぶれの叫びをあげながらだったけど……。
「ほい」
繰り返し映像でも見ているかのような気分になるほど、さっきと同じ光景が繰り広げられる。つまり、ラセツが僕の前に進み出て突っ込んできたデルタをあっさりと投げ飛ばしてしまった。
あの指輪の効果でかなりの速さで動き、その力も相当に増大しているらしいデルタだけど、片手だけが魔獣のようになったところで正真正銘の本物には遠く及ばないようだ。
……と、のんびり観戦している場合でもないな。
「……っ、……!」
向こうでこそこそと動いている奴がいるからだ。
僕のいる場所とは離れた位置。ちょうど部屋の反対側。そこには僕らがこの部屋に入った時からデルタファミリーの中心メンバーと思われる女が二人いた。片方はヴィオレンツァが止める間もなく殺してしまったけど、残る一人は逃す訳にはいかない。
こういう連中のする事を素直に信じるのもなんだけど……、格好からするといかにも魔法薬師っぽいんだよねぇ。よくよく観察すると白衣にはちらほらと魔法薬っぽい色の染みもついているし。
そして、投げ飛ばされたばかりのデルタは、また距離をとり直そうとするのかあるいはまた攻撃しようとするのかわからないけど、どちらにしてもまだ床に叩きつけられていて起き上がれていない。まあ、一瞬後にはまた魔獣じみた身体能力で立ち上がって体勢を立て直すんだろうから、その“一瞬”は本当に短い猶予でしかない。
だけどそれだけあれば十分。
「
ぽつりと呟くようにした詠唱で、僕の足元に風の爆発が発生する。それは瞬間的に大きな推進力を生んで、僕の体を高速で押し出した。
「っ!?」
「ふ……」
起き上がりかけた姿勢のデルタは悔しそうな表情でこっちを睨むけど、僕にちょっかいかけるような隙を許すはずもないラセツが余裕の笑みで追撃に入っている。
「
そしてラセツによる鈍い打撃音を背中で聞きながら、僕は火魔法をまとわせた腕で急速接近の勢いのままに殴りかかったのだった。
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