第249話
魔法薬師っぽい二人の内の片方を殺したヴィオレンツァは、挑発するように――いや、実際に挑発だったんだろうけど――悠々と戻ってきた。明らかに怒るデルタに対して「反撃してみろよ」とでも言うように……。
だけど、デルタは反撃してこなかった。
「く、クソがぁぁっ! 殺してやる、お前ら!」
そして唾を飛ばして喚いているデルタを見る限り、ヴィオレンツァの行いをなんとも思っていないという訳ではなさそう。あれだけの感情を見せているのに、露骨に隙を晒したヴィオレンツァに手を出さないということは、デルタは戦闘能力は低いということなのかな?
ジゴロウが決して弱くはなかったから、頭領であるこいつはもっと……と警戒していたけど、杞憂だったようだね。
「もうためらわねぇ! アッチーディア!」
それだけ言ったデルタがずっと右手の指を握っていた左手をごそごそと動かした。あの妙なポーズで固まっていたのは何かをためらっていたかららしい。その何かをする前に距離を詰めて止めようとしたのか、ラセツとルアナが力を込めるのを感じた。だけどそれはどう考えても危ないから短い手振りで制止する。今度こそヴィオレンツァが人柱――もとい先陣を切ってくれると嬉しいなと思ったんだけど、さっき僕が止めたからかあるいはデルタに何かを感じたのかそうする様子はない。
「
代わりに足は動かさずに風魔法を放つ。強化もしていないただの二文字魔法だからデルタが戦闘の素人でもたいしたダメージは与えられないだろうけど、妨害くらいにはなる。
「ああああああっ!」
「なっ!?」
苦痛に呻くような声を上げていたデルタが、さっきまで右手の指を握っていた左手で風の刃を払ってしまった。そしてその左手というのが、ここから見てもはっきりとわかるほどに人間の手ではなくなっている。
手首から先が……、まるで魔獣のようなごつごつとした手指になっていて、指の付け根からは棘まで生えている。その色は白で、健康的な日に焼けた肌色をしているデルタの体の中で、左手だけが異質な何かに変わってしまったのが一目瞭然だった。
見た感じでは、さっきのは魔法を消されたのではなかった。消滅魔法やサティの特殊能力みたいなものではない。もっと単純に――それこそ魔獣みたいに――力ずくでなぎ払った。
「はぁ……はぁ……」
息を切らして明らかに苦しそうな様子のデルタ。そのさっきまで何かをためらっていた右手の人差し指には、くすんだ白色の指輪が収まっている。
また何か厄介な古代魔法道具っ!?
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