第244話
「さて、あそこだね?」
「はい、間違いありません」
辿り着いた建物を少し離れた位置で見ながら確認すると、ルアナが間を空けずに答える。
それは住宅地にある店舗のような建物だけど、看板が削って消されているから正確には閉店した店舗、のようだ。
それだけでいうと僕らが拠点として使っている建物とほぼ同じなんだけど、大きく違うのは周囲の様子だ。
「少し騒がしいようじゃの」
ラセツが目線を左右させながら言ったように、本当に普通の住宅地だ。この周囲だけ閑散としていたりしない。……本当にデルタファミリーはここを拠点の一つにしているのか? というのが素直な気持ちだった。
「このような場所だからこそ、これまで見つけられなかったともいえます」
「それは、そうだろうけどね」
僕の表情から何かを察したのか、ルアナが補足を入れてきた。事実として、幹部であるジゴロウを捕らえて尋問するに至るまで僕らに気付かせなかった拠点だ。噂みたいにもなっていなかったということは、こんな場所にあっても周辺住人に悟られていないということだろうし。
裏組織の拠点というのは基本的には周囲の建物の入り口とかからは死角になっている場所。そうでなくても、できる限り人通りの少ない場所が好ましい。という常識を揺さぶられた気分だ。デルタファミリーの幹部連中っていうのは迂闊で幸運なだけなのか、あるいは狡猾で大胆なのか、どっちだろうね。
「ここまできて考えるようなこともないのでは?」
そうして僕がルアナとやりとりしつつ思考していると、ヴィオレンツァがぽつりと思わずといった感じでこぼした。
「……いえ、気にしないでください。私は戦闘が始まれば助力するだけですので」
そして僕とルアナ、そしてラセツから三対の目で見られると、取り繕うようにして「気にするな」と言ってくる。
確かに色々と思考に没頭してしまうのは僕の悪癖ではあるけど……、敵組織の拠点を前にして、カチ込む前に一息ついておくのは普通のことじゃないか? 歩いてきたから疲労なんて微塵もしていないけど、一度足を止めて時間をとることで頭を戦闘モードに切り替える、みたいな。そうすることで、相手の罠があった時なんかに対応できる確率も上がるはずだ。
とはいえ、そんな“普通”の思考はともかくとして……、ヴィオレンツァの言わんとしていたことはわからないでもない。要するに獲物を目の前にして舌なめずりしているなんて、じれったいって言いたいんだろう。仕掛ける機会を逃さないようにという戦士の思考と、おあずけは耐えられないっていう肉食獣の本能が半々ってところか。……いや、後者が大きいか。
育つにつれて元の『アル・コレオ』成分がうまく混ざったおかげか最近の僕は少し縁遠くなったそういう獰猛さだけど、心の中心にある感覚ではヴィオレンツァのそういう部分に対して感じるのは親近感だ。
……こいつに対して思うところのあるグスタフ達には怒られそうだから、表には出さないけどね。
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