第243話
街中を騒がせながら走る訳にもいかないから、僕らは早朝のヴァイスをわりとゆっくりと歩いている。だからどうしても間ができてしまうというか、沈黙が際立つような雰囲気になってしまっている。
まあその原因っていうのはヴィオレンツァなんだけどね。ルアナの方はさすがにそこまで距離のある態度はお互いにとらないし。
「戦力的には不足はないのですよね? 助力に来たとは申しましたが、私が手を出し過ぎるのもよろしくないと思うのですが」
さっきの僕の「人手不足」という言葉に引っかかるものがあったのか、ヴィオレンツァはそんなことを聞いてくる。
「……っ」
「…………」
離れて歩いていたルアナが少し反応し、僕の近くにいたラセツは全く反応しない。ヤマキへの忠誠心が高いルアナだから、その信用を得たからこそ今この襲撃に割り当てられている僕を疑うのは気に食わなかったんだろうね。
一方でラセツはというと、確かに僕を直接的に侮辱するようなのには怒るだろうけど、逆にいえば直接的でなければ気にしない。要するに僕と、僕に近しい仲間以外の人間にはあまり興味を持っていないようだった。それが精霊鬼という魔獣であるからなのか、あるいは純粋にラセツが持つ個性なのかはわからないけど。
「そもそもデルタファミリーの本体は少数ってことだからね。こっちの頭数を揃えても意味ないよ」
「……そうですか」
ヴィオレンツァはおそらく個人の戦闘能力のことを“戦力”と言ってきたんだろうけど、僕はこっちの戦える人数という意味で“戦力”を答えてはぐらかした。一瞬の間があったけど、突っ込んでこなかったあたりヴィオレンツァもそこを詳しく話したいということでもないみたいだ。
「……」
「……気になる?」
そして無言になったヴィオレンツァは僕から少しだけ視線をずらしたから、その意図を問い質してみる。ヴィオレンツァの視線の先はラセツ――より正確にはその額から生える角――だった。
ラセツは前々から角は隠さずに街中も歩いている。親指くらいの大きさの真っ黒い角は異形の証ではあるんだけど、長く白い髪や褐色の肌に異様に整った容姿、そして普段から好んで着ている和服のようなこの辺りでは異国風の服といった他の要素があまりにも目をひくためか、それが問題となったことがない。
「いえ、失礼しました」
「気にしとらんよ」
だからかはわからないけど、ヴィオレンツァも僕が普通に「気になるか?」と聞いたら否定して小さく首を振った。
むしろ鷹揚に振舞ったラセツの態度の方が引っ掛かるものがあったみたいで、ほんの少しだけ目尻が動いていた。ただ手持無沙汰になって、何となく聞いてみたってとこだったんだろうけど、裏社会で色々なものを見てきているはずの人間であっても、精霊鬼が目の前にいて普通に会話しているなんて思わないよね、普通は。
いや、あるいはラセツについて探りを入れたかったのかもしれないな……。
以前に僕らが敗北した時には、ラセツはまだいなかったから、その後加わった存在について調べるようにでも言われていたのかもしれない。だとしたらあまりにも拙い態度だったと言わざるを得ないけど、まあヴィオレンツァだからね。こいつはパラディファミリーでも
この後の戦闘でも、ラセツについては特に実力を隠させるつもりもない。どうせそういうのはバレているだろうし、逆に本質的なところはバレようもない。この僕の“娘”が、実は遠い過去から来た鬼だなんて気づかないだろうし、説明されても信じないのが普通だ。
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