第242話

 とても気が休まらない状況の中で一夜明け、僕らは明け方のヴァイスを歩いていた。

 “僕ら”……といっても、こっちの仲間はラセツだけ、あとは同行者にルアナとヴィオレンツァという顔触れだ。

 グスタフとライラ・サイラ姉妹には拠点に残ってもらった。結局あの後も姿を見せなかったインガンノがどうしても気になったのが理由の一つ。全員が出払っている間に探られたりしたら気分が悪いからね。

 

 そしてもう一つの理由がこの同行者――

 

 「アル殿が直接出向くのですね」

 

 ――不思議がっているような、感心しているような、なんとも微妙な表情のヴィオレンツァだ。過去の経緯が経緯だから、僕のいない所でグスタフ達と一緒に行動されるのは不安なんだよね。

 

 「僕らは人手不足だからね」

 

 パラディファミリーとは規模の面で比較にならないんだから、わざわざ幹部クラスが探りを入れにこなくていいよという意図の嫌味を返しておくけど、小声で「なるほど……」なんて呟いているヴィオレンツァには通じなかったみたいだ。

 

 ……そういえば、ヴィオレンツァは僕のことを「アル殿」と呼んでいる。初対面の時には「アル様」だったような気がするから、いつの間にか変わったようだ。

 まあ、意図はある程度わからないでもない。最初の時はまだ僕がパラディファミリー所属となる前で、ドン・パラディの親族ということで丁重な扱いだったんだろう。今は幹部と同格の相談役だから敬意は払うけど下手にはでないぞ、と。

 そこから感じられるのは、ヴィオレンツァという幹部はパラディファミリーへの忠誠心がかなり高いみたい。……いや、ドン・パラディであるサティへの、かな。

 

 なんにしても、ある程度は何を考えているかがわかるヴィオレンツァはまだやりやすい。その戦闘力の面では確かに脅威なんだけど、近くにいられてやりにくいのはインガンノみたいなタイプだ。

 とはいえ、どこかに消えてこそこそと行動されるのも、それはそれでやっぱりやりにくいんだけどね。あの時インガンノは何かを察知してそれを確認しにいったように見えたけど……、それが何かっていうのはこのヴィオレンツァも知らなさそうだった。

 

 僕やその周辺に対して何かを仕掛けようっていうんなら、むしろ立ち去るより僕についてきた方が良かったはずだ。僕自身は当然、その仲間も全員あの拠点に集まっていたんだから。実際に探りを入れに来たことを半ば明らかにしているヴィオレンツァはついてきた訳だし。

 それ以外に交友関係とか、裏の人脈みたいなものを探ろうとしている……という可能性もあるにはあるけど……、それならそれで幹部であるインガンノがわざわざやることでもないし、一度姿を見せたことも辻褄があわない。

 そうなると、素直に何か不測の事態があったと考えるしかないんだけど……、あの“欺瞞”を冠する幹部の行動に関して思考停止するのもちょっと不安なんだよね。まあ、注意はしつつも気にはしない、って感じで落としどころにしておくしかないのかな。

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